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ジャズスタンダードの名曲「チェロキー(Cherokee)」は簡単だ?! ~ピアノ経験者がジャズに初めて取り組む時の罠~

更新日:2 日前

 

過激なタイトルですが、この記事を読めば、この意味が分かって頂けるでしょう。それと同時に、ジャズの練習における、スタンダード曲との向き合い方に関するヒントになれば幸いです。


さて、もちろんチェロキーは非常に速いテンポで演奏されることがほとんどで、特にブリッジではジャズプレーヤーにとって弾きやすいとは言えないキーが連続で登場する曲です。こういったハードルを乗り越えて、この曲で聴衆を盛り上げるアドリブを弾ければ相当に腕のあるプレーヤーと言えるでしょう。初心者が取り組む曲としてふさわしいとは言えないかもしれません。しかし、やり方次第では、非常に有効な練習材料になる可能性があります。


 その練習方法とは、「ブリッジをスプレッドボイシングで弾く」ことです。

テンポを速く弾く必要もありません。この曲の著作権上、完全にメロディを再現することはできませんが、下記の譜面を弾くと、非常にチェロキーを感じられることが分かると思います。


 
楽譜


サンプルの音源はこちら

 

 以下は、無料プレゼントの「チェロキーのコード進行におけるスプレッドの練習方法」の資料から説明文を抜粋したものです。


・冒頭

 チェロキーのブリッジのコード進行はⅡ-Ⅴ-Ⅰが連続して出てきて、全音ずつ下がっていく大変綺麗な進行となっている。このコード進行に対してスプレッドを練習すると、チェロキーにおける4つのキー(注:B♭、D♭、E、Gのメジャーキー)を練習すれば全メジャーツーファイブワンのボイシングを練習できる。・・・・・


・なぜスプレッドか?

 まず初めに、私はこのボイシングは、最初に練習するのにおすすめしてはいるが、「スプレッドだけをやれば良い=ガイドトーンや4ウェイクローズをやらなくて良い」とか、「まずスプレッドからやらなければならない」とか「ガイドトーンや4ウェイクローズを練習してはいけない」とは一言も言っていないことはご承知おき願いたい。


 スプレッドはピアノ一人(ベースがいない、鳴っていない状態)でも、ルート音を含めた広範囲な音域をカバーしており、ジャズの響きを感じ取るのに非常に優れたボイシングであると考えている。同時に、チェロキーのサビのコード進行の美しさも功を奏して、弾いていて満足度が高い。


 ルートレスボイシングは、最低限の音でコードの特徴を出すという大きなメリットがあるが、ベースがいないとどうしても響きが物足りなくなりやすく、曲の響きを感じるのも難しくなる。(便利な世の中にはなったが、誰もがいつも練習時にベースを鳴らせるとは限らない。)


 スプレッドはルートを弾く両手のボイシングの一つの最終段階なので、実用も考慮した場合の応用範囲が広い。ピアノソロを弾きたい場合の基本的なボイシングになるし、管楽器のソロ裏のバッキングにそのまま用いても、基本的には問題ない。また左手だけを抽出しても、それはBud Powellボイシングと言われるもので、右手のソロ裏にそのまま使用することができる。ベースがいるからベース音を弾いてはいけない、などということもない。ルートレスボイシングかそうでないか、で明らかにピアノとして出している響きは異なるので、安定した分厚い和音が好みなら、使えば良い。このように、スプレッドは基礎と実践を両立していて便利で、技術的にも難しくない。・・・・・・


以上、抜粋。


 

 

  スプレッドボイシングの練習に更に向いている曲としては、Everything Happens to Meがあります。しかし著作権の関係上、なかなか資料とすることが難しいため、今回はチェロキーのブリッジとしています。

 いずれにせよ、ここで言いたいことは、練習目的によっては視野を広くすることで、意外と練習に適した曲が見つかるということです。スプレッド以外にも技術的、理論的なレベルは上がりますが、ドロップ2やシアリング奏法も、豊かな響きを得られるピアノらしいボイシングになります。こういったテクニックにも、その練習に適した曲があります。逆に、いわゆる「セッションでよくやる曲」の様な入門用とされる曲でも、意外とこういったボイシングを機能させるのに一工夫が必要なものもあります。ですから、コード進行的に、アドリブを弾きやすい曲が、必ずしも、それ以外の所で初心者向けでないこともあると知っておくと良いでしょう。


 なぜこのようなことを書くかというと、特にクラシックピアノの経験があって、ジャズに興味を持ち始めた人には、ある顕著な傾向が見られると感じているからです。

その傾向とは、「一曲を仕上げる」「演奏を完璧にしなければいけない」という意識が強いということです。もちろんその考え自体は大切なことは間違いありません。一曲の表現を突き詰めることは果てしない努力を伴い、一流のクラシックピアニストの演奏を聴いた後の幸福感は何物にも代えがたいです。


 しかし、それに縛られ過ぎると、ジャズの練習をする場合に、足かせになる可能性があります。つまり、クラシックのレッスンというのは概して、(あくまで非常に乱暴に一括りにした場合ですが)与えられた曲のレッスン受けることで、その曲に含まれる課題や練習目的を習得して曲を卒業し、扱う曲をレベルアップさせていく。というプロセスを辿ります。例えば初心者用の曲では、ブルグミュラーやソナチネアルバムから、徐々にレベルを上げてバッハのインベンションを学ぶ。そこから、上級者になればベートーヴェンの後期のソナタやショパンのバラードなどの大作、リストやラフマニノフの作品を弾く。という感じです。


 弾く曲とピアノ演奏者の熟練度の相関関係が比較的強く、「その曲を弾けるレベルかどうか。」というのがアマチュアピアニストでは一つのステータスになります。もちろん、例外と言うほどではないですが、ホロヴィッツのトロイメライが素晴らかったことは有名ですし、最近ではラン・ランが「エリーゼのために」を弾くということもありました。それでも、ブルグミュラーの25の練習曲をリサイタルのプログラムにするピアニストは聞いたことがありません。(真面目な話、もしもいたら後学のために教えて下さい。連絡お待ちしています。)それどころかファジルサイはトルコ行進曲をわざわざ非常に技巧的に編曲し直して弾いているくらいです。

 よって、クラシック初心者においては、「もっと上手くなりたい」と思っていても、自分はベートーヴェンの熱情ソナタが弾けない、といって挫折する人は聞いたことがありません。それが非現実的な選曲で、さすがに初心者が弾く曲ではない認識していると同時に、自分のレベルにあった初心者用の曲をちゃんとこなせて、自分なりに上達を感じているからです。


 一方ジャズの場合、明らかに初心者向け「ではない」曲は、具体例を挙げるまでもなくたくさん存在しますが、ジャズジャイアントが、「まず習得するべきセッションでよくやる曲」を扱っている例は星の数ほどあります。というより、ジャズジャイアントが頻繁に扱っていた曲だからこそ、セッションでよくやる曲になったわけで、順序が逆です。


 このことから何が言えるかと言うと、ジャズ初心者がジャズを学習する時、例えそれが枯葉やFブルースであったとしても、名盤の演奏と自分の演奏を比較して、決してその落差にがっかりしてはいけないということです。それが、酒バラ辺りのもう少しレベル感の上がった曲なら尚更です。名盤の演奏は、それが「どんな曲であれ」大変高度な演奏です。初心者が一朝一夕で解釈できるようなレベルではないです。

 

 よって、「この曲を仕上げたい」とか「今度の課題曲はこれ」と意識し過ぎるものマイナスになります。これをやると、名盤との演奏の落差が大きすぎて、自身の上達に関して非常に鈍感になったり、練習の達成感を感じにくくなり、挫折感が強くなってしまいます。既にお気づきの様に、チェロキーのブリッジのコード進行をスプレッドボイシングで弾けるようになることは、テンポ320でこの曲をピアノトリオで演奏して華麗なアドリブを弾いたり、まして「ジャズジャイアント(アルバム名、紛らわしい)のバド・パウエル」の様な演奏からは程遠いです。

 

 しかし確実にジャズの演奏が上達しています。この一歩の上達は、実はクラシックで言えば、初心者用の練習曲を1、2曲こなしたのと同じくらいの上達だと捉えることが、挫折防止に非常に重要です。ところが、どうしてもジャズというと「アドリブを弾く」というイメージも相まって、このような練習だけではそう考えられない人が多いのです。


 これがクラシックのレッスンのような発想でジャズの曲に取り組むと、上手くいかない可能性が高い理由です。繰り返しになりますが、クラシックでは、そもそも初心者に向けられた曲を「卒業」しながら曲のレベルを上げていくことで、一曲ごとに達成感も味わいやすいです。また、卒業にあたって、ある程度の曲の完成形や合格基準のようなものがあるので、学習者の精神的なマイルストーンになります。(もちろん、どんな曲でも表現に終わりがないことは百も承知です。どんなに簡単とか初心者向け言われる曲でも、初心者と熟練者ではその表現力は雲泥の差になるでしょう。今はそこまでの話はしていません。)

 

 ところが、チェロキーの完成形や合格基準とはなんでしょう?上記のバド・パウエルの様な演奏でしょうか?クリスチャン・マクブライドのトリオの様に超高速のD♭メジャーのキーでビートをチェンジしながら弾くことでしょうか?これらは極端な例ではありますが、そういった視点しかないと、ここまで述べてきたようなスプレッドの良い練習テーマであることを見落とすことになります。たとえスプレッドだけでも、一つの大切な練習成果です。


 ところで、この記事をお読みの読者様の中には、「あんな♯だらけのスプレッドを練習するのは、ジャズの初心者には向かない」という反論をされる方がいらっしゃるかもしれません。正直、私も少なからず、そう思っております。

 

 しかし、アドリブには苦手意識がとても強く、譜面には非常に慣れた入門者にとっては、「間違っても何でも良いから2コーラスFブルースでアドリブソロを弾け」と言われるより、はるかに易しい内容かもしれません。それと同時に、別のキーを練習したければ、メルマガ登録でお配りしている無料資料には、4つのキー全てのボイシング例が記載してありますので、そこからジャズでよく出てくる♭系のボイシングをピックアップして頂いても構いません。

 いずれにせよ私は、このように譜面に書かれているものでも、曲や演奏として完成させない形のものでも、直接アドリブの練習をしていないものでも、ジャズの上達に寄与するものはあると考えています。一応、もう少し補足すると、実はブリッジに限らず、チェロキーは全体的にスプレッドに向いていますので、興味のある方は、そのボイシングも考えられてはいかがでしょうか。

※もっと言うと結婚式の余興の鉄板レパートリー「いつか王子様が」も比較的スプレッド適性が高いです。エヴァンスに感謝です笑。管理人の演奏紹介をセルフコピーした参考譜面もメルマガ登録者に無料配布しているので、ピアノソロやアレンジに興味がある方は是非ご参照下さい。

 

 以上、ジャズの練習における曲との向き合い方について、私なりの考え方を述べてきました。今回述べてきた、スプレッドボイシングは、もちろん教科書的な基本の練習パターンもあります。しかし私はなるべくならば、曲で直接練習した方が良いと考え、このような記事を書きました。

 その理由はもちろん、ただでさえ達成感や充実感が得られにくいのですから、少しでもそれらを感じやすくするには、教科書的な練習よりも、曲を使った方が良いと思っているからです。更に、教科書的な練習には教材が必要になりますが、曲から学ぶ癖をつけておけば、音源は山の様にあるので、後々、練習のネタ探しに困ることもありません。

 

 最後にまとめますと、クラシック経験者や、「曲を仕上げたい」という意識が強い状態でジャズに取り組むと、つい自分の演奏を名盤の名演と比べがちになります。そのため、初心者用の曲から1曲1曲習得してレベルを上げていく発想で練習に取り組んでいると、自身の成長に鈍感になり、挫折する可能性が高くなってしまいます。そこで、ジャズの場合、練習内容よってそれぞれ適した曲があると同時に、同じ曲でも、演奏者のレベルによってやることが全く変わってくるということを頭に入れておくのが良いと考えられます。

あなたの練習の参考になれば幸いです。


 

おまけ

上述の通り、「ジャズはアドリブをやるもの」という思いが強いと挫折を感じやすいのです。ただし実はこれも考え方は同じです。アドリブを「取れるようになるため」の練習にはI’ll Close My EyesやThere will Never be Another You、これを移調したコード進行を題材として用いるのが適しています。

 なぜならば、この辺りの進行は「セッションでよく出てくる」コード進行がてんこ盛りだからです。この進行をよく練習することで、否、するだけで、かなり多くのスタンダード曲のアドリブに「とりあえず」対応できるレベルになります。アドリブはすぐできるようになりませんので、まずはこの題材に徹底的に集中して練習を繰り返し、慣れてから実際の演奏や曲に応用するという開き直りも時には重要なのです。これが、課題曲を決めて、そのテーマとアドリブという取り組み方をする場合、曲を完璧に仕上げる発想に近づいてしまうことで、名盤との落差に挫折感を感じる原因になりやすいと考えています。

 

もっとジャズについての情報を知りたい方は是非メルマガ登録をどうぞ!



以下のリンクは、スプレッドボイシングを頻繁に使用した、いつか王子様のソロ楽譜です。

メロディの和音付けなどについての解説付きです。

是非ショップで内容を確認してご購入いかがでしょうか。


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