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ジャズピアノ初心者におススメなジャズピアノの楽しみ方 7選

  • 2024年5月20日
  • 読了時間: 11分

更新日:2024年6月28日


  こんにちは、ジャズピアノ研究室管理人の田中です。


 こちらの記事で、ジャズピアノはソロが難しく、バッキング※は(ジャズピアノ初心者にとって難しく、見落としがちではあるけれど)実は、重要な役割であることを説明しました。これは裏を返せば、ジャズピアノというのは実に様々なアプローチ、スタイルで楽しめる音楽である。ということにもなります。

※ATNの数々の書籍名を見れば、バッキングは和製英語であり、伴奏はコンピングが正しいことが分かりますが、ここではバッキングのまま統一します。


 今回の内容は、ジャズの鑑賞面や演奏面などから、私なりのジャズピアノの楽しみ方をいくつか提案します。この記事を読むことで、ジャズピアノがより身近になり、楽しむきっかけになれば幸いです。


ピアノの鍵盤


1.同じ楽曲を聴き比べる

 

 「ジャズに名演あって名曲なし」という有名な言葉があるように、ジャズはアドリブや奏者の特徴を楽しむ傾向が強い音楽です。この言葉は、曲をないがしろにしているという意味ではなく、アドリブを楽しむという点を強調していると考えられます。


 アドリブや奏者のキャラクターを楽しむという点において、ライブのセットリスト、曲目を事前に公表しない。というより、する必要がほとんどない。というのがジャズの大きな特徴です。セットリストにおいてオリジナル曲とスタンダードを、それぞれどの程度の割合にするかは人に依ると思いますが、いずれにせよ、たとえスタンダード曲であっても、その奏者の特徴を楽しめるということです。


 もちろん、ある程度は誰々が弾く〇〇が好き。ということもあると思いますが、上記のようにスタンダードであっても特徴的なレパートリーを持っていたり、独自のアレンジが施されていることもあります。それも含めて、十分に、曲目以上に演奏者のキャラクターやアドリブを楽しんでいると言えるでしょう。


 このように、奏者の特徴が際立つ性格を持つ音楽ですので、同じ楽曲でも、同じ楽曲と思えないほど演奏者によって表現が変わってきます。同じI remember Cliffordでもゴールデンサークルのバドパウエルと、ロンドンハウスのオスカーピーターソントリオは全然違って、いずれも驚異的な名演奏です。枯葉は星の数ほど演奏があるので、どういった演奏が好きか見つけやすいでしょう。むしろあり過ぎて困ってしまうかもしれません。あとは、曲によっては、キーやテンポ、リズムなどが違うことも普通のことです。


 ということで、同じ曲のさまざまな演奏を聴くことで、自分の好みの傾向なども分かってくるでしょう。ピアノに限らず、楽器による印象の違いも楽しめるポイントです。



2.個人のスタイルの変遷を楽しむ

 

 これは、好きなピアニストや奏者がある程度絞れてきた場合に有効かもしれません。また、ジャズに限らず、「追っかけ」というのは、こういう状態のことを言うと思います。すなわち、その奏者の演奏時期による違いを楽しむということです。


 奏者によっては時期によって演奏スタイルが大きく異なる人から、そうでもない人まで様々です。演奏スタイル、という点において、エヴァンスは前者寄りですし、言うまでもなくバドパウエルも時期による好不調の差が著しいです。また、変化が少ない典型例としてはオスカーピーターソンですが、そのピーターソンですら、時期によってバンド編成や共演メンバーといった傾向の違いは結構あります。


 また演奏スタイル以外にも、レパートリーも少しずつ変化していったり、逆に、長期間のキャリアにおいて継続して演奏し続けている曲を時期によって聞き比べたりするのも面白いです。ほんの一例を挙げれば、同じエヴァンスのMy Romanceでも、ラファロとモチアンのトリオと、ラストトリオでは、全く異なります。



3.アドリブ含めて、そういうものだと思って楽しむ

 

 最初に挙げた通り、ジャズという音楽はアドリブを楽しむ傾向が強い音楽です。しかし、録音された音源の場合、例えそれがアドリブであっても、同じことを何度も聞くことになります。そうすると、段々そのアドリブ含めて、その曲だと思って、思い入れが強くなり好きになることがあります。


 つまり、同じ時期、同じメンバー、同じアレンジの曲を聴いても、好きな録音のアドリブでないと少し乗り切れないことがあるのです。ここで、いきなり鑑賞面から演奏面の話に変わりますが、そういった好きなバージョン(テイク)は、アドリブといったことを難しく考えずに、そのテイク自体を1曲として捉え、コピーしたり、練習材料にするのもありかもしれません。



4.テイク違いを聴く

 ここまでの話の続きのような内容ですが、ジャズにはマスターテイクと別テイクといったテイク違いが存在することがあります。スタジオ録音だと同じ曲を何度か収録して、出来の良いものをマスターテイクとして、最終的に一つ作品に収録するのが一般的です。かつてはLPの収録時間の関係もあって、そのようにしていましたが、CDになってからLP未収録の別テイクがボーナストラックとして収録されることが増えてきました。


 別テイクの収録については色々な意見があると思いますが、こんなことを書いている位ですので、反対ではありません。ただ個人的にはオリジナルのLPの順番を無視した配置だけはやめて欲しいと思っています。あとは、没にした別テイクを世に公開したら、ミュージシャンが可哀そうという意見も聞いたことがあります。他には、ライブの場合、日付違いなどで何テイクか作品に収録されていることもあるでしょう。


 それはともかく、別テイクを聴くことで、どこまでアレンジや決め事があるのか。といったことも垣間見えますし、テイクによって似たような演奏をしているパターンと、色々な表現の可能性を探っている場合もあります。全く違うアドリブを聴けると、その奏者の懐の広さというのも分かります。Wynton Kellyの作品に別テイクを集めまくったアルバムがありますが、あれは面白いです。特に枯葉はテイクによって全然違う演奏が聴ける好例だと思います。


 もちろん、テイクによっては没にした理由が頷けるというものもありますが、それも含めて、彼らでも上手くいかないこともあると知る、いい機会になります。ただ、上手くいかない、といってもそのレベルが違いすぎますが笑。


 あるいは、個人的には別テイクの方がマスターテイクより良いと思うものもあり、なぜマスターテイクが選ばれたか腑に落ちないこともあります。似たようなところで、スタン・ゲッツとケニー・バロンのPeople Timeの7枚組コンプリート版はいずれも完成度が高く、よくあそこから2枚に絞ったなと思いました。


 他には、好きな人のライブに行って聞いていると、たまに音源よりも良い演奏を聴けることがあります。「今のやつを録音して、発売して欲しい」と思うのです。逆に、発売されているものが、伊達に発売していないな。と思うこともあります。もちろん、優れたミュージシャンは、どんな場合でも期待を裏切らない素晴らしい演奏を聞かせてくれますが、さすがに発売されているものは、さらにその一枚上を行っているというか、本当に出来が良かったのだ。と感じさせることもあるのです。


 このように、アドリブという不確定要素が大きいからこそ、同じ人のテイク違いを楽しむことができます。これは他の音楽でもできないことはないですが、ジャズを楽しむ上で大きなポイントでしょう。


 最後に番外編ですが、ビックバンドですと、曲のアレンジは同じだけれども、時期によって演奏メンバーが入れ替わっていたり、ソリストを任されるプレイヤーが変わっていたりしますので、そこが聴き比べポイントになるでしょう。




5.ピアニストのスタイルに注目する

 ピアニストはそのスタイルや特徴によって、いくつかのタイプがあると思います。もちろん、何事もそうであるように画一的に線引きはできませんが、傾向として知っておくだけでも、自分がどのようなものが好きか。どういった音楽をやりたいのか。といったことを考える上で参考になる場合があります。私自身、聞いているものに偏りがあり、網羅しきれていない部分はありますので、更に詳しい方がいたら恐れ入ります。


 まず、オスカーピーターソンやエヴァンス、バドパウエル、フィニアスニューボーンJr、エロール・ガーナー?のような「リーダーピアニスト」タイプです。彼らはとにかくピアニストで、とにかく、自分のグループで自分のピアノを弾きまくります。エヴァンスはインタープレイによる三位一体ではないかという意見もあると思います。しかし、ピアノトリオというフォーマットにおいて、ピアノの表現を追求し続けたという点において、やはり「リーダーピアニスト」だったのだと思います。


 次にウィントン・ケリー、レッド・ガーランド、トミー・フラナガン、ケニー・バロン、ハンク・ジョーンズなどの職人タイプ。このレベルの人たちで、やろうと思ってピアノトリオができない人はいませんが、やはり、どちらか言うと、サイドマンとしての活躍が有名な気がする人たちです。


 というより、上記の「リーダータイプ」以外は多かれ少なかれ、こういう側面を持っているかもしれません。特に、マイルスバンドに在籍したハードバップ期の二人はそうなってしまいますね。トミー・フラナガンは名盤請負人として呼ばれているのは有名な話です。ケニー・バロンは、スタンゲッツのサイドマンとして一気に評価を上げました。


 ケニー・カークランドは、比較的新しい世代のこの世代のサイドマンとしてのこういったタイプかもしれません。夭折されたこともありますが、彼のピアノトリオは非常に貴重な音源です。


 またこのタイプの人たちが、自分がリーダーになってグループで演奏する場合、管楽器を積極的に加える場合と、あまりそうしない場合がありますが、どちら寄りかというのも個性が分かれると思います。


 次に、グループサウンド中心に演奏するタイプとしては、ホレス・シルヴァー、チック・コリアやハービー・ハンコックでしょうか。チックよりも、ホレス・シルヴァー、ハービーの方が、よりグループサウンドで自己表現している機会が多い気がします。ハービーのDolphin Danceはバンドのアンサンブルの美しさが印象的ですね。ホレス・シルヴァーの名盤も大抵グループです。


 最後に、キースやペトルチアーニの様に、割とソロも積極的に弾くタイプです。もちろん、二人とも、自己のトリオやグループでも素晴らしい演奏をしますが、これほど、ソロを弾くイメージの強い人はあまり多くないです。ジャレットはケルンコンサートのイメージに引っ張られ過ぎている可能性はありますが、ペトルチアーニは実際にソロの作品も多いと思います。ペトルチアーニは、40分近く、自分の好きな曲をメドレーで弾き続けるシャンゼリゼ劇場の録音は圧巻だと思います。


 ここまで、あくまで私のイメージですので、個人によって感じ方が違い、反論もあるかと思います。その賛成、不賛成も含めて、色々考えるきっかけになるだけでも、私としては嬉しい限りです。それに、まだシダー・ウォルトンも、マッコイも書いていませんが、どちらも、サイドマンのグループサウンドで表現寄りタイプでしょうか?正直、あまり、よく聞いたことがないので、的外れだといけません。この位にしておきます。


 結局、ここで何が言いたかったかと言うと、ジャズピアノは実に様々な表現やスタイルがあるということです。ジャズピアノのジレンマでは、主にジャズ初心者が見落としがちだと思われるソロとバッキングについて解説しましたが、この内容はそれを簡単に補完する内容になるかと思います。バッキングは、ジャズ初心者にとって見落としがちであり、ジャズに憧れる要因になる可能性は高くないと思いますが、ピアニストの非常に重要な役割です。



6.オムニバスを聴く

 これに関しては、こちらの記事で解説していますので、ご興味のある方は、リンクをご参照ください。



7.深く考えずBGMにしたり、音楽鑑賞する

 実はこういった楽しみ方も重要だと思っています。ジャズを弾くようになると、どうしても音源、教材として聞いてしまったり、無意識のうちに分析していたり、ジャズが聞こえてくると「利きピアニスト」をしたくなったりするものです。


 しかしそうではなく、BGMとして、ジャズの流れている空間で美味しい料理を食べたり、単に音楽として鑑賞を楽しむことも大切だなと思います。そもそも、ジャズが好きだったり、聞いていて楽しいという思いを見失わないようにしたいですね。完全にジャズを知らない状態に戻ることはできませんが、たまには気を抜いて、純粋にジャズを楽しむ時間を作るのも良いのではないでしょうか。



以上、私なりのジャズの楽しみ方を7つ紹介いたしました。

1.同じ楽曲を聴き比べる

2.個人のスタイルの変遷を楽しむ

3.アドリブ含めて、そういうものだと思って楽しむ

4.テイク違いを聴く

5.ピアニストのスタイルに注目する

6.オムニバスを聴く

7.深く考えずBGMにしたり、音楽鑑賞する


あなたがジャズを楽しむ時の参考になれば幸いです。


ジャズピアノ研究室 管理人

田中正大


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