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ジャズピアノのジレンマ~ソロピアノとバッキング~

更新日:2 日前


 

 この記事は、どちらかいうと、これからジャズピアノをやろうと何となく考えているとか、ジャズピアノってイメージばかりが先行して実際どんなものなのかよく分かっていないかも。という向けかもしれません。

 そしてこの記事の大前提は、「趣味だし各々やりたいことを楽しくやればいいと思う」ではありますが、既にジャズピアノをやっている人でも、少しでも何か新しい発見のきっかけになれば嬉しいです。


 

 以下、前半と後半の2つに分けて2つのテーマでお話していきます。

前半はジャズピアノにおいてピアノソロはむしろ特殊であること、後半はアドリブソロを弾きたいという人情とバンドで求められるピアノのお仕事は少し違うという内容です。

 読み終わる頃には、上記の2つのポイントで、新しい気づきがあるかもしれません。


<その1 ソロピアノは難しい>

 ピアノの魅力と言えば、「楽器の王様」の名の通り、楽器一台で低音から高温まで、88鍵を駆使して両手、時に両足まで使った圧倒的な演奏ができることだと思います。ショパン、リスト、ラフマニノフのピアノ曲は求められる演奏レベルも非常に高いですが、その魅力は今も多くの人を虜にします。

それではジャ ズピアノはどうでしょうか。華麗でノリの良いアドリブ、テンションを含んだ美しいコードなど、また違った魅力に満ちています。

 

 ところが、冷静に考えると、ジャズピアノというのは、ピアノの機能としては限定的な部分しか使っていない気がしています。

 つまりは、どうしても左手コード、右手単音のフレーズという枠からそう簡単には出られないということです。ブラッド・メルドーや、最近では大分やりたい放題のクリスチャン・サンズなどは、左手にかなり複雑なこと入れてきますが、それでもだいぶ限定的でしょう。

 そして重要なのは、これは彼らだからできることで普通の人はほぼ無理だということです。


 まずはジャズピアノがこういったスタイルになった理由を、簡単な歴史を振り返ることで見えていきましょう。非常に壮大なテーマなので、もちろん学者とか専門家並みにというわけにはいきませんのでご了承ください。

 

 まずジャズピアノの起源は、スコット・ジョプリンで有名なラグタイムです。楽譜に書かれた通りに弾くスタイルで、左手はジャズのストライドの様なベース音とコードを行ったり来たりするウンパースタイルです。そこからジェリー・ロール・モートンのニューオリンズジャズでインプヴィゼイションが現れ、八分音符がスイングし、ビートが4ビートになります。そこから、ファッツ・ウォーラー、テディ・ウィルソン、アート・テイタムと引き継がれ、ストライドピアノからスウィングピアノと発展していきます。

 こういった演奏は、恐ろしく手が巨大なピアニストたち(D♭メジャー:レ♭からファの長10度を楽につかめるくらいの)が、超絶技巧を駆使したスタイルであり、まさにピアノの魅力満載です。クラシックピアノの巨匠のホロヴィッツがアート・テイタムの演奏に恐れを抱いたというエピソードとか、オスカーピーターソンの技巧はこういったスタイルを引き継いでいるのは有名な話です。


 ところがこの頃に、ジャズピアノはビバップの誕生という大きな転換期を迎えます。

ここでバド・パウエルは、その気になれば可能な左手の技巧を封印して、あえてごくシンプルな、いわゆる「バド・パウエルボイシング」と呼ばれるスタイルを編み出します。その目的はもちろん、低音やハーモニーをベースに任せ、それと同時に右手の単音でアドリブに集中し、演奏の中心である管楽器(要するにパーカーとかガレスピー)に張り合えるようにするためです。ピアノのピアノらしさを放棄して、アドリブに集中しましょうということです。


 代表作の「バド・パウエルの芸術※」(※録音の盤によってはピッチおかしいですが。)をはじめとするバラードでの演奏や、人気の「クレオパトラの夢」を収録している「The Scene Changes」のBorderickや、その他、ちょこちょこと色々な所で披露されているストライドピアノ聴けば、本来、彼がどれほどピアノをフル活用できたか、伺い知ることができます。

 超絶技巧のスウィングスタイルを弾きたい人はともかく、モダンジャズ以降のコンボジャズを弾く場合、このスタイルの影響から逃れることはできません。というより、ジャズピアノの定義がこういったスタイルのピアノを弾くことになっている、と言った方が良いかもしれません。


 ちなみに、小曽根真さんがどこかで言っていたのですが、世界レベルのピアニストでも、ストライドなどの古いスタイルができない、弾けない、と言っている人もいるようです。(そのできない、というレベルがどの程度なのかは分かりませんが)小曽根さんがそういうスタイルでピアノを弾いていると、「自分はそういうことできない」と告白されたそうです。


 で、その後、エヴァンスの登場により、和音やハーモナイズ、ソロスタイルが発達し、かなりピアノをピアノとして使うになりました。

 それでも、例えば名盤Aloneにおいても、概して曲のテーマ部分は恐ろしく複雑な右手と左手の絡み合いを見せるも、アドリブ部分は、左手和音に右手ソロという枠から「大きくは」飛び出ていません。更に晩年のラストトリオの頃になると、もう意味わからない、複雑なことをやりまくっていますが、アドリブの骨子自体は同じです。あの歴史上、何人現れるか分からないほどの天才エヴァンスですらそうなのです。(ちなみに私は、このラストトリオ一択というほど、この時期のエヴァンスが好きな少数派です。それはともかく。)


 その他、世界的なピアニストでも、人によってソロの得意不得意はあるものの、そもそものソロアルバムの数はグループものより圧倒的に少数です。世の中のジャズピアノソロライブというのも割合で言ったらほとんどありません。※Maybeck Recital Hallシリーズの廃盤はジャズピアノ界の大きな損失だと思います。


 これらのことから何を言いたいかというと、あなたはジャズピアノを弾いて、どうなりたいかイメージできていますか?ということです。セッション参加や仲間とのアンサンブル、ライブ開催してジャズ好きなお客さんを呼ぶのを比較的に頻繁にできるならばいいでしょう。

 

 しかし、そうとも限りません。ほとんどは家のピアノを一人で弾いて楽しむとか、人前で弾くのは、ジャズに特別に詳しいわけではない聴衆の前のことが多い。と言う人はどうでしょうか。繰り返しになりますが、ジャズピアノでは相当な高いレベルに至るまで、ピアノをピアノらしく、鍵盤をフル活用する、という演奏がかなり難しいです。そしてほとんどの場合、最低でもベーシストやベースライン担当、欲を言えばドラムもいないと音楽的なアイデンティティの確立が各段に難しくなります。

 

 このソロジャズピアノでの難しさはやっている人からすると自明なのですが、意外と音楽に特別詳しくない一般の人にはもちろん、クラシックなどをやっているピアニストにも基本的に理解してもらえません。

 また同時に、いくらテーマを作りこんでもテーマの演奏だけでは楽曲の長さに限界が出てくるため、ジャズという枠の中で楽曲を膨らませようとすると、どうしてもアドリブでの表現が必須になります。


 このアドリブという主な表現の場においては、右手の単音(か、せいぜいたまに出てくる3度など)が主役という、ピアノにしてはもったいないシーンが極めて多くなります。それらは、そもそも「ジャズ好きな」聴衆以外からすると、アドリブなのか、予め用意してきたものなのかの区別も定かではない音楽になる可能性が高いです。アドリブの時にシアリング奏法などのブロックコードなどで盛り上げる方法はピアノらしい手法ですが、これはそれなりに難しいです。


 そして、我々にとって更に悲しい現実として、かなり音楽を聴ける耳のある、ジャズには詳しくない知人によれば、ケニー・バロンのソロピアノのアドリブ部分は「ちょっと長いかも」だそうです。やっぱりテーマのメロディを聴けると安心するとのこと。結局ジャズのアドリブというのは、アドリブと同時に、多かれ少なかれその裏でテーマのメロディやコード進行、コーラス構成を感じながら聞ける人でないと、音楽に入り込むのが難しいのです。

 

 クラシックの名曲だって知らない人からすれば、時に退屈なものになることもありますが、同一の曲における各奏者間の「出している音」の違いは、ジャズに比べれば無いに等しいです。この違いは大きいです。


 この点について、セロニアス・モンクのソロピアノ名盤であるソロモンクの様に、比較的テーマのメロディ主体で構成されている楽曲が多い作品例もあります。ですが、やはり遅めからミディアムのテンポの選曲で、一曲一曲が3分程度の長さのものが多く、壮大に曲を展開させるタイプの演奏ではありません。(誤解なきよう補足しておきますが、もちろんその中で凝縮された素晴らしさがあることは十分承知しています。)


 要するに、ジャズピアノをやると、通常ピアノといったらイメージされるソロピアノが、逆に特別で難しいものになりますよ。ということです。少なくとも、最近話題のストリート系ピアノで高い演奏効果を発揮するには、実はモダンジャズ以降のジャズピアノスタイルは相性、適性が良いとは言い難いと考えられます。


 この辺りは意外な盲点で、普段ジャズを聞かない人が、イメージや興味だけでジャズの「即興」とか「楽譜なくてもコードで弾ける」という部分に注目しすぎて、見落とす部分になります。

 よって、ジャズのリズムやアドリブにおいて音楽を構成していくというジャズのアイデンティティよりも、ピアノ一人で音楽を成立させることを優先したアプローチを採り、実はやっていることが全然ジャズになっていないのはよくある話です。例えば、ジャズアレンジ譜上級編みたいな楽譜を買ってきて、結局即興にならずに楽譜を弾いているだけだ。とか、リズムやノリがジャズっぽくならない。と悩むことになります。もちろん、悩まないで、それで楽しく弾いているのであれば、誰もそれを止める筋合いではありません。私もそれで良いと思っています。


 ただ知っておいて頂きたいのが、即興とかコードとかを優先した、楽譜に忠実なレパートリー以外の方法でピアノを弾きたいだけなら、正直そこまでジャズにこだわる必要はないということです。何もわざわざそんな大変な道を選ばなくても他に方法はあります。ジャズピアニストがよく使用するボイシングやアイデアを理論として学ぶだけならば、自分の中に豊かな響きの引き出しが増えることは間違いないと思います。


ピアノ

 

<その2 セッションのバッキング>

 ここまで来て、自分はバリバリセッションにおいて、バンドでジャズピアノ弾くのが目標だから大丈夫。と思った皆さまは大丈夫だと思いますが、一応老婆心ながら、以下の点も忘れずにいると良いかもしれません。完全なおせっかいですね。

 統計取っていないので割合は分かりませんが、結構、管楽器の人や歌の人は、ピアノの一番の仕事を伴奏、バッキングだと思っている節ありです。いや実際、ピアニストの主な役割はそうではあります。デクスター・ゴードンのスタジオ録音ってピアノのソロ尺短くないでしょうか?笑


 そこで皆さまに思い浮かべて頂きたいのですが、ジャズピアノに最初に目覚めた録音、きっかけは何でしょう?

 ピーターソントリオの超絶的な演奏、エヴァンスの美しく神秘的な演奏、バド・パウエルの鬼気迫るアドリブ、モンクのクセになるカクカク演奏、ソニー・クラークのこぶしの利いたブルージーなソロ、レッド・ガーランドの独特のブロックコード、ハービー・ハンコックの時代を先取りした天才的なハーモニー。それぞれ憧れのヒーローがいるのではないでしょうか?ちなみに私はカウントベイシーのヒーツオンのイントロと、ちょうど同じ時期に初めて聞いたピーターソンのソロの枯葉です。

 

 そこで今一度問いますが、ウィントン・ケリーの火のついたマッチのようなバッキング、スタン・ゲッツ・カルテットのケニー・バロンのバッキング(People Timeではなくて)、サムシンエルスの枯葉でのハンク・ジョーンズの渋すぎるバッキングという方いらっしゃいますか?多分ほとんどいないのではないかと思います。(いたら本当に申し訳ない。)


 つまり、人情として、やっぱりバッキングより、どちらか言えばアドリブソロ練習したくなないでしょうか。別途、こちらの記事でセッションの特徴を紹介していますが、セッションによっては、その気持ちを理解頂けていない気がすること結構あります。


 ですが、同時に、そこをあまり気にしすぎて、バッキングがちょっと残念でも落ち込まなくてもいいのではないかという気がしています。バッキングが全然できなくて、ソロだけめちゃくちゃうまいというアンバランスはほとんどないと思いますし、ある程度、バッキングとソロの偏差値は近くに来るはずです。


 最初のうちは自分の気持ちに素直に、アドリブの練習中心に、バッキングは後からついてくる。くらい気楽に構えていて良いと思います。

 例えばありがちなのが、ベースがいるということでルートを弾かないガイドトーン(3-7)ボイシングに義務感を覚えてしまったり、演奏中の格好を気にして、両手のボイシングを必死で覚えようとする。など、出す音が先行してしまって、タイミングやノリが失われてしまうのは避けたいところです。また、そもそもバッキングに魅力を見出せず練習のモチベーションが下がってしまうようでは、もったいないです。


 そこで個人的に私がおすすめなのは、スプレッドボイシングです。検索すればたくさん出てくると思いますし、教本では頻出です。これは左右の手でかなり広いスパンを効率的に抑えることで分厚く安定した、それでいてテンションを含んだ響きを得られますので、弾いていて満足度が高いです。また、よく出てくるツーファイブワンのコード進行におけるボイスリーディングがスムーズなので、非常に使い勝手が良いです。


 ルートを含んでいるので、セッション時にベースの邪魔をするのではないかと心配する方もいるかもしれませんが、そのまま管楽器のバッキングで登場させても大丈夫ですし、実際そうしているピアニストもいます。

 ちなみに左手だけ抜き出したボイシングは、右手のアドリブの時の左手として使用可能で、そうするといわゆるバドパウエルボイシングになります。ちなみに、ハンク・ジョーンズの様な手の大きなピアニストはさらにその上に10度まで一気に抑えて使っています。いずれにせよ、最初のうちは無理にガイドトーンボイシングやら4ウェイクローズをうろ覚えで弾こうとするより、練習の負担も下げることができます。


 話を戻して、更にスプレッドがそのままテーマに綺麗にハマるジャズスタンダードもありますし、そういった曲でトリオ演奏をすれば、フロント楽器のバッキングをしなくて済みます笑

 それは冗談として、トリオをやる位ならば、フロントのバッキングをする方が演奏的な負担は少ないと思いますが、色々な選択肢があることを理解しておくのが良いかと思います。

トリオにしてもベースソロのバッキングは必要ですしね。


 バッキングは、どちらか言うとアドリブソロを弾きたくなる人情の逆を行くお役目ではありますし、なかなか一人で練習するのは難しいことは否定できません。初めのうちは、スイングのリズムで裏拍を食って入るところなどは、なかなか自然にできないのは私もとても共感できます。よくレッド・ガーランドの左手のタイミングを真似しましょう。と言われますね。このようにやることを絞って一つ一つできることを増やしていけば、ちゃんとできるようになってくるはずです。


 これもアドリブと同様、できるようになってくるとバンドとのやりとりを楽しめるようになってくるので更にジャズの面白さが分かるようになってくると思います。

 自分の好きなピアニストのコピーが基本ですが、何をやれば良いか迷っている場合は、まずは、ボイシングをスプレッドに絞って、メトロノームとお友達になり、レッド・ガーランドのタイミングで、テンポは100くらいでやってみるのが良いかもしれません。


 

 まとめると、ジャズピアノというのは、鍵盤をフルに使う一人オーケストラのようなピアノの一般的イメージや、ピアニストとして自然に憧れるイメージの逆を行く部分があるということです。

 一つはソロピアノの適性が下がること。二つ目は、思いっきりソロを弾きまくる主役的な存在より、バッキングが主なお仕事ということです。

 自分がどんなジャズをやりたいのか、しっかりイメージを持ち、充実感のある練習を積みましょう。


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ジャズピアノのソロは難しいですが、

「いつか王子様は」は詳細な解説やメロディの和音付けについての解説を付けています。

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