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柔道から考えるジャズピアノのアドリブ練習の原理原則

更新日:2 日前

 

 クラシックをはじめとする楽譜がある音楽をやっている人、そもそも音楽をやっていない人、ジャズの初心者の人からすると、ジャズはなぜ即興やアドリブで演奏ができるのか?という疑問を持たれると思います。

この記事を読めば、その回答の内容とそこから見えてくるジャズピアノの練習のやり方について理解が進むと思います。


 

 私は上記の疑問に対して、よくそれをスポーツの試合に例えており、そうすると何となくわかって頂けることが多いです。

 例えば「ある決まり事のなかで演奏しているから、それで成立している。例えば球技や格闘技などの試合はパッと見ると選手たちは相手の動きや自分の狙いに応じて自由に動いている。ただしルールが決まってその中で試合をしている。そのため、初めて対戦する人とは対戦できない、とはならない。一方で、武道の形とか、演武のように台本や決まった動きがあって、それを美しく行うアプローチがクラシック音楽みたいなイメージ。それと似ている」という説明です。もちろん厳密には違うでしょうが、あくまでイメージです。


 私は柔道に関して多少知識があるため、以降は柔道で説明をしたいと思います。では早速ですが、柔道をやっている人は、初めから全ての動きがスムーズに出来たのか考えてみます。当然ながら、それはありません。基礎から一つ一つ動きを習得し、一見すると一連の流れに見える動きが、様々な基本動作の組み合わせだったりもするわけです。

 柔道を始める時はまず、徹底的に受け身を稽古して、投げられた際に頭を打ったり、

骨折したり、関節を痛めたりしないような動きを体に叩き込みます。

 その受け身も倒れる方向や倒れ始める時の高さ、動き方などいくつかの種類があり、原則、これらを習得しないと、背負い投げなどのいわゆる技の稽古に入らせてもらえないほど重要な基礎となります。


 その後、ある技(背負い投げ、一本背負い、内股、大外刈り、大内刈り、払い腰など)を相手に掛ける時の体の使い方を反復して何度も繰り返す「打ち込み」という稽古も始まります。それによりいつでも正しい動きで技を出せるように体に叩き込みます。他にも、寝技の際に相手の抑え込みから逃げるための「海老」と呼ばれる(海老が尻尾を丸めて素早く移動する動作に似ているので、)基本動作もあります。


 これらの基本動作の反復練習の膨大な積み重ねの先に、「乱取り(らんどり)」という実戦に近い形の稽古があり、試合があり、競技力のレベルアップがあるのです。さらに言えば、同じ基本動作でも、初心者と熟練者では動きの精度や美しさが全く違います。

 

 しかしこれらの動作ですが、実際の試合で「教科書通りに」出てくることは原則ありません。受け身は動作そのものが一本負けを意味するため極力避けますし、技は相手の動きと状況に応じて臨機応変に繰り出し、時に複数の技の連続技に変形します。選手によっては自分なりにアレンジを加える人もいます。あるいは、せっかく抑え込んだのに易々と海老を許して寝技から逃がしてくれる対戦相手はいません。

 この辺りはもし文章だけで伝わりにくければ、検索サイトや動画サイトなどで、「柔道 受け身」「柔道 打ち込み」「柔道 選手権」「柔道 決勝」などと検索して頂ければ、そのイメージはつかめるかと思います。


 さて、ここで、もう一度ジャズに話を戻します。ジャズピアノも当然ながら一つ一つの基本的な要素を習得していき、それを組み合わせることで演奏の上達につながっていくのです。

 そのために音源の深い傾聴や耳コピが必須であることは定説で、私も全面的に賛同します。

ただし、それをジャズ初心者に向かって要求するのは、柔道初心者に向かって「オリンピックや世界選手権の試合を見て自分に生かしましょう。受け身や打ち込みの動作を見つけて真似しましょう。」と言っているのに等しいのです。かなり高度な要求であることは想像に難くないでしょう。この状態をジャズに置き換えて考えた場合、フレーズをコピーしても、わけもわからず丸暗記になり、コピー1小節目から弾かないと16小節目のフレーズが弾けなかったり、音は弾けても全然ジャズに聞こえなかったり、それ以前にそもそも音が採れないない。といった事態が発生します。初心者ジャズ愛好家の社会人が貴重な休日に、家事や育児の合間に頑張ってコピーに挑戦し、その結果、半日で音源4秒相当しか音が採れなかった時の気持ちは想像に難くありません。


 それでよくある「フレーズ集」に手を出すも、結局どれも覚えられない。弾いてみても何だかジャズをやっている気がしなくて面白くない。挫折しそう。という状態に陥ります。私もこのような経験はあるので、その気持ちはとてもよく分かります。


 こういったフレーズ集などのフレーズは、柔道でいえば試合中の動きを切り出して、それを寄せ集めた様なものです。そうでなければ、現実には起こりそうもない仮想の動きを想像で作り出したものかもしれません。楽器の運指特性を考えず、チャーリー・パーカーのフレーズをそのままピアノ譜に移行している場合や、楽器を演奏しない人が理論だけで考えたフレーズだとそういうことが起こります。もちろん、分かりやすいフレーズも含まれますが、初心者にはその判断が難しいでしょう。耳コピ含めて、もし上記の内容を独学で初心者がこなし、挫折なくアドリブができるようになるならば、ジャズレッスン教室は不要なはずですが、現実はそのようになっていないように思うわけです。


 よってこれに対する対策としては、初心者への根性論に近い無理な耳コピの要求や、フレーズ集のような方法ではなく、本質と原理原則を理解しやすいフレーズの提示と、そのフレーズの説明となります。学ぶ側はそれを理解しながら一つ一つできることを確実に増やしていくことが重要です。遠回りのようで実はこれが一番近道なのです。これはわけもわからずコピーしたフレーズを丸暗記したり、フレーズ集からフレーズをピックアップし、それらの連結でアドリブを生み出そうとする発想とは似て非なるプロセスです。


 どういうことか例を出すと、私はドイツ語でWie geht es ihnen heute?が英語のHow are you today? に相当することは分かりますが、

heuteがtodayであること位しか分からず、中身や文法を説明することができません。他に知りたいことがあっても質問できません。これがフレーズの丸暗記です。

 一方で英語はそれなりに学んできておりますので、相手のご機嫌でなく意見を伺いたければ、How are you?ではなく、How about you?と言えばいいことが分かります。

 

 これをジャズに当てはめた実例はこのページの下部で譜例を交えて解説します。後述するアドリブの原理原則と併せてお読みになれば、丸暗記が上手くいかない理由がお分かり頂けると思います。

 また、ここまでお読み頂ければ、フレーズ集ではなくコピー譜を利用しても、それをいくらがむしゃらに暗記したところで、アドリブができるようにならない理由は理解して頂けたかと思います。


 更に短期間にあらゆることを平行して上達させたくても、人間の能力には限界があります。そして、想像以上に人間は同時に色々なことを覚えられませんし、覚えたことをすぐ忘れてしまいます。(一部の秀才はできたかもしれませんが)九九を覚えたときに、1週間で一の段から九の段まで全て覚えられたか思い出して下さい。あるいは理屈無しでただ九九の丸暗記ができたでしょうか?

 大切なことなのでもう一度書きますが、アドリブの入り口のためには丸暗記ではなく原理原則を理解しながら、焦らずに地道にできることを増やすことです。それが、徐々に音源を聴いた時に汲み取れる情報を増やしていくことに繋がります。つまり柔道で言えば、十分に受け身や打ち込みを習得してから本物の試合を見て、何をしているのか読み取ろうとするイメージです。受け身も打ち込みもできないのに、真似だけするとケガをするか、相手をケガさせます。ジャズで言えば、耳コピできずに挫折か、セッションでの事故あたりに相当するでしょう。


 しかしある程度、原理原則を理解し、音源の音を自分なりに解釈し、応用できるようになれば、あとは上達のためにひたすら音源を聴くことに尽きます。音源から学べる段階まで来たならば、ひたすらそれを繰り返すのみです。そして学んだことをセッションや本番でアウトプットするというサイクルを繰り返すことで上達できるようになります。そして、この作業に終わりはありません。


 

 ではそもそも、そのアドリブの原理原則とは何なのでしょう。

チャーリー・パーカーが確立し、モダンジャズ以降、ジャズミュージシャンの共通言語となっている、基礎であり永遠の課題でもあるバップフレーズの原理原則は以下の通りです。

<原理>

適切なタイミングで、適切な音に、適切にアプローチすることを繰り返してフレージングすること。

<原則>

その適切なタイミングとはコードチェンジの時、通常は1拍目や3拍目の表拍。

その適切な音とはコードトーン、主に3度、または5度や1度。(テンションノートも可。トニックの場合は6度もあり得る。)ターゲットノートと呼ぶ。

その適切なアプローチ方法とは、スケール、ディレイドリゾルブ、クロマチック(半音)です。尚、ディレイドリゾルブとは、簡単に言えば、ターゲットノートにアプローチする時に、一度反対側に回ってから挟み込むようにしてアプローチする方法です。

 この時、つなぐ音と音の通り道は理論によって(後付けで)一般化されており、アベイラブルノートスケールとして知られています。その他の通り道は単純なアルペジオもありでしょう。


 

 この原則に忠実に、綺麗にコードトーンを追いかけるほど、単音のフレーズでもコード進行が聞こえてくる教科書的なフレージングになります。しかし、プレーヤーとしては基本的なことばかりやって、やっていることを聴衆や他のプレーヤーに簡単に把握されたくないというのもあるでしょう。そういった原理原則にどこまでも忠実な、本当に教科書的な入門にぴったりなフレーズは、意外にも実際の音源の中ではかなり稀であるということです。(柔道の打ち込みの様な動作が試合中に確認できないのと似ています。)言い換えれば、多少なりとも「流動的」である部分があることがほとんどなのです。この流動性が、アドリブの独特のスピード感や緊張感、プレーヤーの個性やオリジナリティを生んでいることは間違いありません。しかし同時にそれが、初心者がコピーしたフレーズを分析したり、自分のアドリブに落とし込むのを大変に困難にしている大きな理由です。

 

 尚、市販の本ではATN出版の「ジャズピアノソロコンセプト」のビバップエチュードという付録が、上記の原理原則の理解のために熟考された内容となっています。ただ、2拍のコードチェンジのみで構成されており、コード進行も若干のクセがあります。8小節の同じフレーズをいくつかの調へ移調したのみであり、若干バリエーションに欠けるという印象があります。※書籍自体は大変素晴らしい内容です。あくまで上記エチュードに限った話です。このエチュードも付録ですので、最小限の内容にしていると推定します。


 そして本来は更に、フレージングのみならず、ジャズ独特のスイング感、アクセントの位置、他楽器とのアンサンブルの兼ね合いなどがあり、これができないといくら音として正しい音を出していても、全然スイングした演奏になりません。ただこれは言語化が難しい部分で、初めはフレージングと同時にそこまでは考えるのは難しいと思います。そして、ある程度レベルアップして以降も、このスイング感の獲得というのは永遠の課題であります。

 

 だからこそ繰り返し私は、ある程度まで理解が深まったら、あとはひたすら音源を聴くことの重要性を説いていますし、多くの演奏家もそのことに言及しています。ただし、ここではあくまでそこに至る準備についての説明です。よって理論や座学だけで再現可能でない部分に関する話はここまでに留めておきます。

 

 あともう一つ補足すると、この説明はバップフレーズの説明であり、ブルースのフレーズのように、フレーズそのものが一塊の意味を持っている場合は上記の原理原則の限りではありません。それだからこそ、こちらは本当に聞こえてきたことをそのまま表現する必要があり難しいのです。

 

 よく初心者に、枯葉やFブルースで、ブルーノートスケールの音だけ使って自由にジャズアドリブみたいなことをやらせる光景があるかと思いますが、逆に本来、それは非常に高度なことです。あるいは少し引いて見方を変えてみると、こういった「一発もの」のコード進行は、そのサウンドに不協和を生じさせない音でアドリブを取ること自体はそれほど難しくありません。それでアドリブに慣れるというのは一つのやり方でしょう。

 ところがこういった発想のアドリブでは、星影のステラ、All the things you areやイパネマの娘は言うに及ばず、Aトレやグレーターラブですら、コーラス通してまともにコード進行をサウンドさせられるか怪しいです。限界はあっという間に訪れることは肝に銘じなければなりません。


 この辺りの理解無しに、文字通りコピーによって耳だけで直感的にアドリブが取れるようになれば、それに越したことはありません。ただし、こういったお勉強の部分無しで綺麗なビバップのアドリブをできる人には、これまでほとんど全くと言って良いほど会ったことがありません。

 あと、ピアニストはやることが多いので、アドリブ以外にもお仕事がたくさんあります。ですので、特に初心者のうちはしっかり練習でやることを厳選して、頭がパンクしないように気を付けないといけないのです。


 

 今回はジャズの練習を考えるのに柔道を例に出しましたが、それぞれ好きなスポーツをイメージして頂いても良いと思います。サッカーではキック(アウトサイド、インサイド、インフロント、アウトフロント、ヒール。パス、シュート、フリーキック)、ヘディング、ドリブル、トラップ。野球ではキャッチボールや素振り。バレーではレシーブ、トス、スパイク、剣道では素振り、面籠手胴打ちや斬り返しなどになるのではないでしょうか。


 元々モダンジャズというのは、相手ができないスゴイこと、難しいことをしてやろう、オレ様の腕を見せてやる。といった、かなり競争的、攻撃的、排他的なエネルギーを基にして発展した経緯があります。(まあこれは、それなりに音楽全般的に言えなくもないことですが)

 だから演奏後(演奏中?)にシンバルを投げつけられたり、ソリストの吹いているフレーズに合わないコードを抑えると睨みつけられたり、怒鳴られたりするのです(おっかねー)。

 良くも悪くもジャズはかなりスポーツ要素が強い生い立ちを持つ音楽だということを頭に入れて、練習に取り組むと良いかもしれません。


 まとめると、ジャズの練習として、音源の耳コピが重要であることに一切の異論はありません。しかし、取り組む側のレベルによってはハードルが高いことがあります。原理原則の学習で補足することによって、一見遠回りであるようでも、一つ一つやるべきことを積み重ねて、確実にジャズの上達に近づくことができます。


 

【譜例と説明】

 フレーズの暗記はなかなか上手くいかないということを書きました。その具体例を以下で説明していきます。

 こちらの譜面は、有名なBlue MitchellのBlue’s Moodsから、I’ll Close My Eyesのピアノアドリブソロを抜粋して引用したものです。1コーラス目のABACの2回目のA部分、演奏時間としては3分を過ぎたあたりです。YouTubeでも動画はたくさん聞けると思うので、音源を確認しながら読んでみて下さい。

 尚、誤解のないように強調しておきますが、ウィントン・ケリーのラインにダメ出しをしているのではありません。そんなことはもってのほかです。そうではなく、いかに生のフレーズが流動的かということと、初心者が学びやすい原理原則に忠実なフレーズにした場合は、どのくらい元のフレーズから変化するのか。というのを示しているだけです。


 元のフレーズ(譜例1)ですが、A7のフレーズがDm7に解決しているのは、Dm7の1小節目の3拍目の頭です。ここではコードの5度にディレイドリゾルブしています。つまり2拍目までは、A7のフレーズが延長されていえます。そして、Dm7のフレーズは11度を含むアルペジオで、9度で終わるという音使いで、少しトリッキーです。その後、4拍裏にでもファを弾けば、だいぶ解決感が強まると思いますが、それを弾いていません。代わりに、次の小節の1頭の左手のバッキングで補っているように思います。両手の共同作業です。


<譜例1>


楽譜


 

 続いてF7からB♭M7への解決ですが、B♭M7の3度(レ)に解決するのは1拍裏です。1拍目の表には経過音で短3度にあたる音が来ています。この1拍表の音も、教科書的にはB♭m7に解決する音使いと言えます。初心者には紛らわしいでしょう。

 ではこれをごく素直な教科書的なフレーズにしてみます。<譜例2>ではA7の5度からそのままハーモニックマイナー(パーフェクト5thビロウ)で降りていき、Dm7の小節の1拍表にディレイドリゾルブし、コードの5度の音に解決しています。


<譜例2>

楽譜

 <譜例3>ではB♭M7の1拍表に3度に解決するように、F7の4拍裏をド#に変更し、八分音符を一つ減らしました。<譜例4>では、F7のフレーズを大きく変えて、3度から♭9thに跳躍する、よくあるフレーズとし、B♭M7の1拍表にコード5度に解決しています。


<譜例3(上)、譜例4(下)>

楽譜



  以上からお分かり頂けるように、往々にして生のフレーズというのは、何をやっているのか理解しながらでないと、正しく解釈して自分のアドリブに活かすことが難しいです。是非、必要に応じて理論も勉強しながら、丸暗記ではない方法でジャズジャイアントのアイデアを自分に取り込んでいきましょう。


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 極めて教科書的で原則が読み取りやすいフレーズを厳選しており、間違っても、私が理論を元に作成したフレーズは皆無です。コード進行も工夫しており、このフレーズを一つずつ着実に理解することで、ジャズのフレージングとアドリブの基本的な方法を学べるようになっています。

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 つまり、耳コピでは挫折しそうだけれども、何としてもジャズのアドリブをできるようになりたい人のための教材的な側面と、実践部分を比較的理想的に両立した内容なのです。ショップで商品を確認して、ご購入いかがでしょうか?


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