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ジャズピアノのフレーズ練習と運指の関係

  • 2024年5月26日
  • 読了時間: 9分

更新日:2024年7月7日


 こんにちは、ジャズピアノラボ管理人の田中正大です

 

 今回は、ジャズピアノのフレーズ練習と運指について考えていきます。音源をコピーする際に、どこまで運指を考えるべきか?考えるならばどういった点に注意するべきか?といったことについて視野を広げるきっかけになれば幸いです。


 ジャズは、主にクラシックといった楽譜の内容を解釈、再現して表現する音楽と異なり、アドリブが主体で即興性があります。クラシックよりはるかにミスタッチに対して寛容で、「間違えてはいけない」といったプレッシャーは相対的にはるかに少ないでしょう。また、楽譜に指示された難しいパッセージを何度も繰り返し練習する必要性も低いです。


注)これは、ジャズピアニストとクラシックピアニストを比較した場合に、ジャズピアニストの方が、フォーカルジストニアの症例が圧倒的に少ないことを根拠としています。しかし実際にその症状に苦しめられ、不本意な音楽生活を余儀なくされている方がいることを考慮し、最小限の言及にとどめたいと思います。



 このジャズピアノの特性から言えるのは、何もわざわざ難しいこと、音を拾ってみて弾きにくいと思ったフレーズを頑張って弾く必要はないということです。というより、アドリブであるからこそ、弾きにくいと思うフレーズをパッと演奏するには無理があります。


 聞きかじった難しい言葉を無理に使おうとする中学生みたいになります。音を確認したり、アイデアを知りたいだけならば良いですが、実用を想定して無理に弾こうとすると、練習に時間をかけた割に結局弾けなかったり、手を痛める危険があります。


 では一般的に、弾きにくいと感じるフレーズとはどんなものなのでしょう。物理的に明らかに弾けないものは当然そうだとして、煎じ詰めると、自分なりのスムーズな運指の見当が付かないフレーズだと集約できると思います。


 ジャズピアニストは手が大きい人が多いですから、手のサイズが違う人が弾こうとすると、フレーズやアルペジオの途中で指くぐりや手首の回転、軽い跳躍が必要な場合があります。弾けなくもないけれど明らかに運指しにくい、音を外しそうと感じる場合は、いくら良いフレーズだと思っても、本当に練習を進めるべきか、再考する余地があるように思います。


 更にこの時、無理に練習しようとする場合に見落してはいけないのは、本来フレーズのスイング感というのは運指と関連しているということです。ピアニストのタイプにもよりますが、概ねフレーズの音の中に、微妙な強弱やレガート、ノンレガートが入り交じっています。(たまにテテ・モントリューの様にマシンガンの様に弾く人もいますが。)これがゴーストノートやアクセントとなり、スイング感に繋がります。


 この現象の大きな要因としては、人間はどうしても5本指の中に強弱があり、また、指くぐりの際は運指の安定感が若干低下するためです。これはピアノの経験がある方はご存じの通りでしょう。鍛え上げられたクラシック奏者なら分かりませんが、ジャズのアドリブ中に全ての音の打鍵を完全に均一にコントロールするのは非常に難しいです。


 そのため、フレーズに対する合理的な運指と、それに対応する指の特性に起因する上記の様な音の揺らぎが、割とそのままスイング感になるのです。逆に、真面目に全ての音を均一に弾こうとする方がかえって不自然で、スイング感を殺すことになります。オスカーピーターソンも動画を見ると、フレーズの最高音を小指で弾く際に、かなりチョップに近い動きをしてアクセントをつけていることがよくあります。


 つまり運指の見当がつかなかったり、不自然な運指で弾こうとする場合、元のフレーズが持つスイング感が失われる可能性があるということです。これも、弾きにくいと感じるフレーズを無理に練習することをお勧めしない、理由の一つです。ついでにですが、管楽器はこういった強弱などのコントロールを主にタンギングで行っています。音を飲むとか、そういった表現をします。



 それでは試しに、以下に示したフレーズの実例を考えてみましょう。これはバドのエッセンジャズのAll the thingsの一部ですが、A♭M7に解決した後、アルペジオがあります。このアルペジオ、一見、一聴は何てことないアルペジオですが、意外と考えさせられます。というのは、三連符の速いアルペジオで、意外と音域広いのです。試しに弾いてみて下さい。


楽譜

 アクセントは、前の小節の3裏から、解決した頭の1拍目、そしてアルペジオの最高音の9度(シ♭)にあります。が、それにしても、この音をそれなりにはっきり弾こうと思うと、12345で一気に弾くことになるでしょう。


 しかし、繰り返しになりますが、このアルペジオを1から5で運指するには、かなりの手のサイズが必要です。おそらく、バドの手の大きさなら可能でしょう。多分、私がシドミファソと弾くのと同じ位の感覚、手のスパンで弾いているのではないかと想像します。要するに、私はこの運指では無理です。


 ということで、どうすれば弾けそうか考えてみました。

 

 まあ、アクセントを保持しつつ、途中で「指跨ぎ」をして、アルペジオの構成音をゴーストノート化すればギリギリ弾けるかな。といった所です。その運指の候補を3つ示しましたが、これは好みに依るのでしょうか?(一つ目の楽譜に二つの運指候補あり)


楽譜

楽譜

 

 一番素直なのは「ソ」で親指をくぐらせる運指だと思われます。ただ、クラシックで技術を鍛えていると、薬指で外側から跨いだりできるのでしょうか?そもそも、こういった指跨ぎをしても、全部ちゃんと鳴らせるのだとすると、こんなに頑張って考察している自分が悲しくなりますが。


 それでもやはり忘れてはいけないのは、仮に弾けたとしても、指跨ぎはテンポが上がるとミスタッチを招きやすい運指です。また、「頑張る運指」というのは力みにつながりやすく、親指は故障をしやすい部位ですので、少しでも自然に弾けるに越したことはありません。ですから、個人的にはこのフレーズは、手放しに習得したいな。と思える部類には入りませんでした。


 ちなみに、バドは他のフレーズで、あきらかに素早いアルペジオの途中で指替えをしないと弾けないものも見られます。(いわゆる全盛期と言われる時期ですが・・・。)どこまで自分に取り込むべきか、フレーズの好きな度合い、自分の運指技術など総合的に考える必要があります。


 もう一つの例を見てみましょう。これもバドのフレーズ、アメイジングVol.1のOrnithologyの別テイクのイントロです。あっさり弾いているので、何となく聞き流していると全く気付きませんが、これは物理的にキツイ例といえます。


楽譜

 すごくカッコイイフレーズですが、AmM7からAm7への音のスパンが広すぎて、Am7の「ソミミ」の手首の回転が追い付きません。Am7の頭のソをゴーストにすると半音のクリシエ出ませんし、トップのミをゴーストにしたらフレーズ変わりますし、下のミは、ファ#へのアプローチがダサくなります。こういうフレーズは個人的には、没フレーズと言えそうです。そうした時に、他の弾きやすいフレーズと合体させるという策が有効な場合があります。


 それが、以下の譜面です。

楽譜

 ここではケニーバロンがAm系でよく弾く音型を拝借しています。こういうことをする時に、フレーズの原理原則や仕組み、理論を知っておいた方が、修正した時におかしなフレーズになりにくいのです。


 ただ、このように元のフレーズを改変するくらいなら、元のフレーズで多少指が回っていない方が良い。という人もいるでしょう。その辺りは、好みだと思いますし、最終的にスイングしたフレーズを納得して弾ければ良いと思われます。


 尚、ケニーバロンがモーダルフレーズでガンガン弾いている状態に入っておらず、極めてシンプルで分かりやすいフレーズを弾いている場合、本当に分かりやすく、弾きやすいフレーズが多いです。個人的には、彼の手のサイズが、成人黒人男性にしては(差別的な意味はないです)、比較的小さい(それでもG♭長10度、Cの長10度とかは普通に届く位)というのも、一つ大きな要因だと思っています。


 最後に、黒鍵を親指で弾くかどうかも考えておきます。原則的に、親指での黒鍵運指は音を外しやすく、234が鍵盤の奥を弾く羽目になりやすいため、避けるわけです。しかし、(クラシックでも同様ですが)その原則を逸脱する方が弾きやすいこともあります。


 特に、ジャズはもともと管楽器主体のフレーズであることも多く、ビバップのテーマなどは、ピアノの運指特性なんて一切気にしないメロディも存在します。(ビバップではないけれど、Oleoなどはペトルチアーニですら、テンポが上がるとミスタッチしています。)


 その中で一つ、これまたOrnithologyの最後のフレーズの運指を例示します。これは、一般的に弾きやすいとは言いにくいフレーズですが、同じ音形が繰り返されているため、同じ運指を平行移動した方が良いパターンだと思われます。逆に、この例示の1の黒鍵を人差し指で跨ぐと、素早い運指が難しくなるでしょう。


楽譜

 さて、せっかくジャズは、自分が好きで弾きやすいことばかりを弾いても許される音楽です。(好き勝手に弾いていい。ではないので誤解なきよう。)むしろ、正しく積み上げればそれが個性になります。演奏スタイルも、少ない音数で物を語るカッコよさだってあります。


 確かに憧れの超絶技巧のカッコいいフレーズもあるかもしれませんが、単語を覚えたての中学生のようにならないためには、弾きにくいフレーズは練習対象から外す。という発想は持っておいても損はないと思います。


 ちなみに少しだけ脱線しますが、関連情報として耳コピの小技も併せて一つ紹介しておきます。耳コピしたフレーズでちょっと曖昧な部分がある。と感じる場合、とりあえず自分が聞こえる範囲でしばらく弾き込んでから、改めて音源を聞き直してみてください。


 もし自分の弾いた音が音源と違っている場合、そのポイントで違和感が出るはずです。かつそれ以外の音は弾き込んだことでしっかり聞こえるようになっているため、相対音感で当初曖昧だった音が聞こえるようになる可能性が上がっています。もし違うことは分かるが、それでも正しい音が分からない場合は、他の候補の音で同じことを繰り返して正しい音を見つけるまで頑張ります。


 今回の内容があなたの役に立てば幸いです。


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