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行動学の「習慣化」のから考えるピアノの練習の習慣化

  • 2024年6月9日
  • 読了時間: 13分

更新日:2024年7月7日


  こんにちは、ジャズピアノ研究室管理人の田中です。


 あなたは行動を習慣化させるにはどうしたら良いか考えたことはあるでしょうか?

 実は行動科学で、人間が行動を習慣化する時のモデルはかなりはっきりと示されています。それは、4つのステップから成っており、このステップを理解することがピアノの練習を習慣化することに繋がれば良いかと思い、この記事を書くことにしました。


 この記事を読むことで、なかなか練習時間を取れない忙しい人が、少しでもピアノの練習を習慣化するきっかけになれば幸いです。


 早速ですが、その習慣化の4ステップとは以下の通りです。


1)トリガー

行動を起こす理由やきっかけです。これが何度も訪れる、感じるほど習慣化しやすいです。


2)行動

まさしくその習慣化する行動そのものです。この行動が簡単であるほど習慣化しやすくなります。


3)リワード

その行動をした結果、得られることがら。報酬のようなものです。

リワードをしっかり感じられると、行動が習慣化しやすいです。


4)投資

投資と書いてありますが、お金を出すわけではないです。行動を習慣化しやすくなるためのひと工夫、アクション、思い入れ。などです。

投資を行うことで、さらにトリガーを感じ、このサイクルを回していくことが、行動の習慣化です。


この説明だけではイメージしにくいと思うので、具体的な例を挙げます。

この4つのステップを実にうまく利用しているのが、X(旧ツイッター)です。以下、順番に見ていきましょう。



1)トリガー

日常には様々な出来事、話題、ニュースがあり、それを発信するというコンセプト。


2)行動

スマホを開いてすぐにアプリが立ち上がる。

短文を簡単に入力し、操作性の良くトリガーで感じた発信を行うことができる仕組み。


3)リワード

自身の行動(投稿)に対して「いいね」やリツイートがされる。

フォロワーが増えていくことで、行動の成果が数字で表れる。


4)投資

自分の好きなアカウントを探したり、自分がフォロワーになることで、アプリに対する思い入れができる。



といった具合です。この例は分かりやすいので取り上げましたが、個人的にちょっと問題があると考えています。それはドーパミン分泌、脳の報酬系にアクセスして、依存に近い状態で習慣化させていることです。


 ドーパミンは有名なので、ご存知の方も多いと思います。この役割は「報酬が手に入るかもしれない」「手に入れたときのことを考えると幸せになる」という、不確実なものに対して「人が行動を起こさせる動機付け」だと言われています。


 人間が進化の大半を過ごしてきた世界は不確実なことだらけだったので、食料や資源を入手するには、そういった行動が役立ったのでしょう。


 しかし、上記のSNSシステムはこの「かもしれない」の部分をリワードにし、人が熱中するように設計しています。投稿に「いいね」がつく「かもしれない」。フォロワーが増えた「かもしれない」といった感じです。


 クレーンゲームをやり始めると、止まらなくなるのも同じでしょう。「次こそは取れるかもしれない」ということです。世の中のマーケティングやSNS運営者は、脳科学者や生理学者を集めてこうやって人間の報酬系を巧みに刺激するシステム作りお金を稼ごうとしていますから、あなたも注意してくださいね。


 閑話休題。話を4つのステップに戻しましょう。

 

 ピアノの練習は、こういった依存のような形ではなく習慣化しなければなりません。そこでポイントになるのが、好きな音楽を聴こうとするとき、実際に聴いている時にはいずれにしてもドーパミンが出ているということです。


 ドーパミンと聞くと、欲望や依存などのネガティブなイメージを持たれる場合もありますが、完全に悪者というわけではありません。逆に、これが上手く作用しないとやる気が出なくなったり、何にも希望や期待をしなくなってしまいます。


 つまり、この欲望を上手く活用し、音楽の自己実現のための力の源としたいのです。それでは、4つのステップについて、実際にどのような状況が当てはまりそうか、それぞれ見ていきましょう。



1)トリガー

→行動を起こす理由やきっかけです。これが何度も訪れる、感じるほど習慣化しやすいです。


(例)

・ジャズピアノに興味を持ち、練習してみたくなる。

・良い音楽や素晴らしい演奏を聴いて、自分も上手くなりたいと思う。

・音源を聞いて、何をしているのか知りたくなる。



2)行動

→まさしくその習慣化する行動そのものです。この行動が簡単であるほど習慣化しやすくなります。ここで言えば、どんな練習をするか。ということに相当するでしょう。


(例)

・練習項目を絞って、難しいと思うことをやらない。無理なく続けられることを練習する。

・1回の練習時間を弾く前から決めない。短い練習時間でも良いから、とりあえずピアノに触り始めることが重要だと知る。逆に少し弾き始めれば、終わらせようと思っても、5分では終わらずもっと長く弾いているものです。



3)リワード

→その行動をした結果、得られることがら。報酬。これをしっかり感じられることが重要。


(例)

・新しいスタンダード曲を知る、覚える。

・新しいフレーズを弾けるようになる。

・耳コピが楽になってきたと感じる。

・新たな理論を理解した。

・仲間に「上手くなった」と言ってもらえる。

・ミディアムテンポ以外にも、速いテンポでもロストせずに八分音符でアドリブができるようになってきた。

・セッションでフロントの要求事項に応えられるになってくる。

・アンサンブルの際に、他の楽器がやっていることを聴く余裕が出てくる。

・お気に入りのピアニストが何をやっているか分かって、自分自身がピアノでその音使いを味わえる

・以前はとても手に負えないと思っていた曲に挑戦できるようになってくる。

・明らかに演奏中にできることが増えてきている。



4)投資

→「一工夫」「アクション」「思い入れ」などのことです。


(例)

・録音をして聞き返す。

・ピアノの周りを片付けて思った時にすぐ弾けるようにする。

・新しい練習課題(教本)を探す。

・練習日誌を付ける。

・お気に入りのYouTubeレッスンチャンネルを探す。

・セッションに参加する。

・新しい音源(CD)を入手する



 さて、簡単な例を考えてみましたが、行動を習慣化するモチベーションを生むという観点で、ドーパミンが働いていそうなのはどのステップでしょうか?おそらく2から3にかけてが、そこに該当するのではないでしょうか。簡単に言えば、これからの練習で、自分が上手くなったり、新しい発見があったりすることを期待し、そして、実際に練習することでその成果や報酬を感じるのです。


 上記の2から3においては、音楽を聴き始める前だけでなく、実際に聴いている時でもドーパミンが分泌されているのと近い働き方をしていると言えそうです。この働きにより、さらにやる気を感じ、投資に進み、行動の習慣化につながります。

 

 ちなみに、音楽やスポーツ、読書などは、セロトニンやオキシトシンなど気分を高揚させたり、気分良くしてくれるホルモンも分泌してくれますので、ドーパミン依存とは異なります。安心しましょう。


 ここまで考えた時に、ジャズピアノの練習の習慣化の際に、最も注目すべきは3だと考えられます。


 1、2の部分まではある程度ジャズに興味さえ持てば、自然に進むはずなのですが、3が上手くいかないと、そこで躓き行動が習慣化しません。ではなぜリワードを感じないことが起こりやすいか、と考えた場合、ジャズはアドリブを主体とする音楽であり、練習でやったことが直接演奏や楽曲の完成に繋がりにくいからだと考えられます。


 クラシックと違いジャズは、Fブルースだろうが枯葉だろうが、とりあえず、これができたからブルースは合格で、次の課題曲に進みましょう。というステップよりも、練習項目をアップデートしていきます。その上達のマイルストーンやステップも(クラシックに比べれば)かなり属人的です。もう少し具体的に言えば、例えば、理論重視、耳コピ重視、アンサンブル重視といった切り口があるでしょう。


 併せて、他の記事でも述べていることがありますが、とにかくジャズの練習は達成感を感じにくく、長期的(2年3年のスパン)で見て、ようやく「そういえば上手くなっていた」と思うようなこともしょっちゅうあります。


 あくまでイメージではありますが、もし料理を学ぶとした時、通常、やる気や達成感を感じやすいのは、簡単なレシピでも良いから、1品ずつできるレパートリーを増やして、完成した料理を味わうようなアプローチだと思います。


 しかし、ジャズでの練習アプローチは、具体的なレシピで料理を習得することはなく、ひたすら色々な材料を切って様々な包丁技術を習得したり、食材の知識や味付けを勉強したり、出汁の取り方だけ練習しているうちに、気づくと、その習得度合いに応じた具体的な料理ができるようになっているのに近いです。少なくとも、練習している感覚として、かけた時間に対して、曲そのものを演奏する能力が比例的な伸び方をしないことは知る必要があります。


ここで、上記で上げた、3)リワードの例をもう一度見てみましょう。


・新しいスタンダード曲を知る、覚える。

・新しいフレーズを弾けるようになる。

・耳コピが楽になってきたと感じる。

・新たな理論を理解した。

・仲間に「上手くなった」と言ってもらえる。

・ミディアムテンポ以外にも、速いテンポでもロストせずに八分音符でアドリブができるようになってきた。

・セッションでフロントの要求事項に応えられるになってくる。

・アンサンブルの際に、他の楽器がやっていることを聴く余裕が出てくる。

・お気に入りのピアニストが何をやっているか分かって、自分自身がピアノでその音使いを味わえる。

・以前はとても手に負えないと思っていた曲に挑戦できるようになってくる。

・明らかに演奏中にできることが増えてきている。


 短期から長期目線まで、なるべく色々な視点で書いてみたつもりですが、あなたはどのような内容に同意、共感できたでしょうか?逆に、全然ピンと来ない内容はありましたか?


 このように、どういったアプローチをすると高い満足感を得られるか。というのは、突き詰めると本人にしか分からないのです。また、スタンダードを覚えると言っても、一つの楽曲を比較的深く研究したいタイプと、広く浅くやりたいタイプによって、やりたいことも違うでしょう。


 セッションでの仲間とのアンサンブルの中でリワードを感じやすい人や、個人練習でリワードを感じやすい人もいるでしょう。様々な可能性が考えられます。


 ところが、既述のジャズの練習の分かりにくさや(指導者の)練習方針の属人性も相まって、本人にしかリワードの正確なありかが分からないのに、ジャズ初心者は、自身がどこにリワードを感じやすいか見極められない。あるいは何となく分かっていても、それを実現できない。という事態が発生するのです。


 特に、初心者のうちは、情報が溢れるこの世の中で、アクセスした情報の内容と自分のリワードまで考慮して適切な練習をピックアップするのは難しいでしょう。


 もちろん、興味を持つきっかけとなった演奏家の存在や、その演奏に少しずつ近づいている。というリワードはあるかもしれません。ただし、既述した通り、リワードは頻繁に感じるほど行動を習慣化しやすいため、目標が遠すぎると、自分がそこに近づいていることを感じにくくなります。


 東京から京都に行きたいのに、スタートとゴールだけを見てたら1kmの移動では誤差にしかなりません。しかし、まずは家の最寄り駅に行く所に注目すれば、京都に向かっていることを実感できます。よって、もっと現実的な直近の取り組みにおけるリワードが必要です。


 イメージをつけるために、一つ私自身の経験で恐縮ですが、例を入れておきます。私は耳も特に良いわけではなく、大したセンスもなく、ジャズサークル入部当初は、とにかくコードとか理論の様な、再現性が高いアプローチでジャズを理解したいという感覚を持っていました。


 その当時、先輩方なりに色々と指導してくれていましたが、やはりコードに興味がある。ということで、そこに詳しい先輩が色々教えてくれる内容に特に面白さを感じていたと思います。


 もちろん、色々とセッションをやることで導いてくれた先輩もいますし、ライブに連れて行ってくれた先輩もいました。今思えば全てが良い経験でしたが、やはり様々なアプローチの中で、自分に響きやすいことや成果を感じやすいものと、そうでもないものがあったように思います。


 ということで、これをお読みのあなたが、もしジャズの練習が習慣化しなかったり、練習のやる気が出ないとお悩みの場合、リワードを見失っていないか今一度見直してみることをお勧めします。


 具体的な方法としては、自分が何に興味を持ちやすいのか。何を特に面白いと感じやすいのか。ということに意識を向けてみるのが良いでしょう。


上で少し示唆ましたが、

・理論を勉強するのが好きなのか

・ジャズピアニストのコピーが好きなのか

・スタンダードを一曲掘り下げるのが好きなのか、色々と聞くのが好きなのか

・実はアドリブよりもバッキングやボイシングが好きなのか

・音源を再現する方向の音楽が好きなのか、自分のアレンジが好きなのか

・セッションが好きなのか、固定メンバーでの練習やライブが好きなのか


といった、さまざまな視点が見つかるかと思います。こういった視点だけでも、持つか持たないかで、練習のために入手した情報をどのように自分に活用するか、視野が広がるはずです。


 投資について、少し補足しておくと、一工夫、ちょっとした行動による思い入れにより、更に次のトリガーを感じやすくし、次の行動につなげやすくなるということだ。というのは既に説明した通りです。言い換えれば、ここでは、ジャズを更に練習したくなる一工夫ということになります。


 一例を挙げますと、個人的に特におすすめなのが、多くの人も言及する通り、練習の録音をすることです。まず、録音にはレコーダーも必要ですし、録音しないで弾くよりも手間がかかるため、投資行為に相当します。また、なかなか練習の録音は、自分が下手過ぎて聞くのが辛いとか、ショックを受けるという面はあるため気が進まないことが多いでしょう。


 しかし、客観的に聴くことで初めて自身の課題に気づくこともありますし、更に上手くなりたいというトリガーにつながる可能性も高いです。録音により自身の演奏の課題に気付き、練習(行動)に取り込めるといった点にもつながるのです。同時に見落としてはいけないのは、決して短所や改善点ばかりでなく、長所も見つけられるということです。是非、自分の演奏を自身でほめましょう。


 他に、長期的に見れば、下手なりに昔の録音を聴くと自分の成長を感じることでリワードにつながるかもしれません。私も、たまに昔の録音をもっと録っておけば良かったな、と思うこともあります。


 以上の様に、メリットはあると思いますので、もしご興味があれば、是非試してみてください。また、音質等含めてそこまで本格的に保存しなくて良ければ、電子ピアノのレコーディングやスマホも便利な手段になると思います。


 最後に、これだけは忘れてはいけないのが、今回の内容の大前提として、そもそも「ジャズが好き。上手くなりたい。」という思い、トリガーは必須だということです。それがなければ、習慣化や練習につながるはずがありません。自身がジャズに興味をもったきっかけ、例えば素晴らしいライブを鑑賞した経験、気に入った音源の演奏に憧れたこと、ジャズピアニストの人生に興味を持ってジャズを弾きたくなったこと。など何でも良いです。


 ジャズに興味を持ったり、ジャズピアノが上手くなりたい。と思ったきっかけを忘れず、強い熱意をもって、ジャズピアノに取り組んで頂ければ良いな。と思います。


 以上まとめますと、行動の習慣化には、4つのステップ、トリガー、行動、リワード、投資、が存在します。この習慣化にはドーパミンの作用が影響しますが、正しくドーパミンを活用して習慣化の力に変えるために、自分の練習におけるリワードがどこにあるのか見直してみるのがいいでしょう。


今回の記事があなたの練習の役に立てば幸いです。


ジャズピアノ研究室 管理人

田中正大


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