top of page
検索

スケールを覚えているのにアドリブができない3つの理由を解説します

  • 12月6日
  • 読了時間: 21分

  こんにちは、ジャズピアノ研究室管理人の田中です。


 あなたはジャズのアドリブを弾けるようになりたいと思い、頑張ってコードとスケールを勉強しても、いまひとつアドリブができるようにならないで困ったという経験はないでしょうか?


 Cメジャーのツーファイブワンでは、Dm7の時にドリアンスケールだの、G7の時にはミクソリディアンスケールだ、オルタードスケールだのと必死で覚えるも、そもそもドリアンもミクソリディアンも、開始の音が違うだけで両方とも全部白鍵で構成されているだけ。何が違うのか分からない。

 オルタードスケールも覚えたところで、ただスケールの音を行ったり来たりしているだけで、全然良いフレーズに聞こえない。

 

 これはジャズのアドリブを勉強し始めた人の多くが悩む問題であり、その結果、「ジャズ理論は意味がない」という極論に走ってしまったり、逆に「もっと理論を勉強しないといけない」となって頭でっかちになってしまったり。最悪の場合、「自分には向いていなかった」と、ジャズを諦めたり、やめたりしてしまう危険もあります。


 今回の記事を読むことで、上記のような「せっかくスケールを覚えたのに、意味がなかった」「アドリブを弾けるようにならなかった」という事態を回避し、どのようにスケールや理論と向き合えば良いか分かるようになるでしょう。


 早速ですが、スケールや理論を覚えたのに弾けるようにならない理由は、ジャズのアドリブの学習において「理論の知識は、音源のフレーズや、演奏内容を解釈するための道具」だということを見落としているから、である可能性が高いです。

※当然、本格的に作曲や編曲に取り組む場合などの理論学習の意義はその限りではありません。また、後述しますが、理論を学ぶことで、耳コピする際のヒントになる場合もありますが、これも広義の「解釈の道具」と考えることとします。


 私のこれまでのアドリブ解説系のブログをお読み頂ければ分かるように、ほとんどのフレーズを理論で説明しています。基本的に、これが理論の使い方なのです。理論というのは、様々なミュージシャンがやっていることを、普遍的、網羅的に説明するための道具です。同じ演奏に対しても、使う理論が異なれば、異なる解釈をすることもできます。


 ジャズ学習の時に多くの人が学ぶのはアベイラブルノートスケールの理論です。一方で、マニア必携の「the Jazz Theory」ではメロディックマイナーを中心とした解釈となっており、少なくとも私には、解釈がかなり異なるように感じます。別にどちらが正しいとか優れているという話ではないですし、細かい話はどうでも良いのですが、要は、理論は解釈の道具でしかないということを言いたいだけだと理解してください。


 尚、以降は煩わしくなるため、スケールを覚えてアドリブの習得を目指すことを、ジャズ理論を学ぶことの一つと考え、そういった行為全体を理論の学習という記述で統一したいと思います。


 さて、ジャズ理論の知識を音源の解釈の道具だということを見落とし、スケールを覚えればアドリブができるようになると期待するのは、どういった思考に基づくのか考えてみることにします。

 

 それは、根本的には、「自分で作ったフレーズでアドリブを弾こうとしている」場合がほとんどでしょう。

そもそもジャズのことをほとんど知らない人の場合、アドリブとか即興と言うと、その場で全ての音楽を生み出していると考えることがあります。


 しかし、ある程度ジャズに取り組めば、ジャズというのは基本的に、曲のメロディのコード進行を繰り返しながら、そのコード進行に基づいてアドリブを弾いていること位は、すぐに知ることになります。

(余談、そのこのコード進行の多くがAABAとかABAC、ブルースといったフォーム、構成になっているというわけですね。)


で、問題は、コード進行に基づいてアドリブを行うということを理解し、その視点に立った時に、コードに合ったフレーズを「自分で作って演奏しよう」と考えている人の場合、その拠り所をスケールに求める可能性が高いのです。だから、スケールを覚えて、曲のコード進行に合うスケールは何々で、その音を使ってアドリブをしよう。という発想に陥ります。


 そうすると出てくる疑問として、その人たちは、そもそもなぜ「自分で作ったフレーズを演奏しよう」と思っているのか、ということです。私が考える主な理由は以下の通りです。


1つ目は「即興とかアドリブだから」だと考えて、文字通り、コードに合わせて「即興演奏」しようとしている。


2つ目は、ジャズは耳コピとよく言うけれど、自分で作ったフレーズでないと演奏にオリジナリティが出せない、と思っている。


3つ目は、耳コピしたいけどできない、あるいは、できなくもないが労力が大きくあまりやらないため、自分で作ったものを弾こうとしている。


となります。


 人によって、いくつかが複合的に絡んでいる場合もあれば、単独の理由が多くを占めているなど、個人差はあるかもしれません。ですがいずれにせよ、上記の理由それぞれに対して、適切に発想転換しなければ、いつまでも「スケール覚えても弾けない症候群」から脱することはできません。


 そして同時に、そのそれぞれの発想転換について掘り下げていくと、いずれの場合も結局は「耳コピして、それをたくさん練習する」という思考が足りておらず、理論に頼ろうとしすぎている面が見えてきます。そこで、それぞれの発想転換の内容について考えた後、まとめとして耳コピと理論の橋渡しする方法について考察していきます。


では、まず3つある理由のそれぞれの対処法を考えていくことにしましょう。

 

 まず1つ目の「即興とかアドリブだから」だと考えて、文字通り、コードに合わせて「即興演奏」しようとしている場合です。こういった人は、ジャズの演奏というのが、言うほど「即興」でないと知ることが重要です。確かに、クラシック音楽の様に楽譜を元に演奏したり、コピーバンドのようなスタイルで、練習から本番まで、(少なくとも出す音という視点からすれば)毎度の演奏の再現性が極めて高い音楽からすれば、ジャズは「即興」に見えるかもしれません。なにせ、初めて会った人とほとんど打合せ無しに、演奏時間も分からない音楽を成立させたりするわけですから。


 既に述べた通り、ジャズを始めて間もない人でも、ジャズは大元の曲のコード進行に基づいてアドリブをしている知識はすぐに習得します。しかし、そのコードに基づいた演奏に関して、決して「何も準備をしていない」わけではないことを見落としていることがあります。本当は、その演奏の前に、「膨大な準備や鍛錬」をして、そこで習得したものを放出しているといった方が、事実に近いことを知りません。つまり、「即興演奏」に過大な期待、幻想を持っている人は、その「準備」の部分を見落としていることが多いのです。


 あくまでイメージではありますが、上記を漫才とかコントなどに例えてみます。まず、いわゆる即興演奏「ではない」、楽譜に基づいた演奏は、通常の相方やメンバーと、持ちネタを披露するような芸と言って良いでしょう。


 一方でジャズの演奏は、その場に集まった複数の芸人が、くじ引きなどでランダムにチームを組み、軽い打合せだけでネタを準備して芸を披露するような感じです。あるいは、いつもの相方と芸を披露するとしても、そのネタは持ちネタではなく、その場でいきなり与えられたお題を元にする必要があったり、大喜利をやったりするようなイメージといって良いでしょう。


 これは、事前にその芸自体を披露するための準備はしていないけれども、芸人各人がそれまでの経験で培った、様々な知識や技術を駆使して、芸を成立させていることは想像に難くありません。


 ではジャズのアドリブを文字通り「即興」だと思っている人が、「即興演奏」をどのようにとらえているかというと、いきなり言葉もほとんど通じない外国のコメディアンとタッグを組み、その場でジェスチャーのみで相手の国の観客を楽しませるような芸を作るように求められる位、乖離があると言って良いでしょう。


 上記はあくまでイメージとして挙げた例ではありますが、ジャズというのが、一般の言葉のイメージほど、「即興」で演奏しているわけではないことが、お分かり頂けたのではないでしょうか?このことは、同じミュージシャンのレパートリーをテイク違いで聴くと実は結構似ていたり、アドリブ中に同じようなフレーズが何度も登場することなどから伺い知ることができます。行き当たりばったりや、文字通りのその場の即興だけでまともなものが出来上がるほど、(ジャズのみならず)音楽というのは甘いものではないということです。(ケルンコンサートに過剰な幻想を持たないようにしましょう。)


以上、心当たりがある方は、「即興」を額面通り捉えすぎていないか、振り返ってみて下さい。


そして、普段から行う音源の耳コピや、耳コピしたものの練習や楽器の基礎練習が、そのまま「演奏の準備」になっていることを知っておくと良いと思います。



 それでは次に、ジャズは耳コピとよく言うけれど、自分で作ったフレーズでないと演奏にオリジナリティが出せない、と思っている場合です。


 これに関しては、関連する内容を別の記事でも書きましたが、「誰々の影響を受けている」ということが他人に伝わる演奏ができるようになれば、それだけで既に相当の演奏レベルに達しています。なぜなら、誰だか分かるということは、誰かの演奏にそっくりということで、音源のピアニスト並みの演奏が出来ているということになります。


 ただそれより、そもそもまずお伝えしたいのが「いくら耳コピしたところで、オリジナリティは出せるので大丈夫です。安心して耳コピしてください。」ということです。


 では耳コピで、オリジナリティが失われない理由を説明しましょう。ちなみに、「耳コピしたものを練習して音源そっくり弾く」ということと、「ある人がアドリブを弾いたところ、その人が耳コピ対象にしているピアニストがアドリブを弾いているのとそっくり同じになる」というのは似て非なる現象です。今は後者の話をしています。


 もし仮にあなたが大好きなピアニストの鏡の様に、そっくりな演奏をできるようになったとしましょう。既に述べたように、この時点で、相当なレベルに達しています。逆に、このレベルに達していなければ、あなたは自分がオリジナリティを心配するほど、誰かに似ているわけではないので問題ないでしょう。(昨今はSNSの発達で色々な意見が飛び交っていますので、これに関する深堀や議論は平行線をたどることが多い気がしますが。)


 それはともかく、次に、あなたが誰かそっくりに弾けるようになった時にもまだ、演奏のオリジナリティを心配するのであれば、そこに少しでも良いので、他のピアニストの要素を加えましょう。それにより、あなたの演奏にはオリジナリティが出ます。既に一人のピアニストのスタイルをマスターするほどの腕であれば、その位の調整は、少し意識すればできるはずです。


 ここでもまだ反論があるとすれば、それでは、既存の演奏を組み合わせただけで、オリジナリティではない。というものです。これに対する私の意見は、他のミュージシャンの影響を受けたからといってオリジナリティが出せないわけではないということです。誰だって、先人のミュージシャンの影響を受けた上で自身のスタイルを作っています。これはジャズに限らず、どのような音楽でもそうでしょう。


 あなたは好きなピアニストがいると思いますが、その人の演奏には特徴があるから、好きなはずです。全員、バドの影響を受けているはずです。その人はバドのパクリで個性がないのでしょうか?ピアノとベースとドラムのピアノトリオを演奏する人は、全員オリジナリティがないということにはならないでしょう。また、バドほどではないにしても、現在、エヴァンスの影響を全く受けずにジャズピアノを弾くのは極めて難しいと言えます。現代のピアニスト達はエヴァンスのパクリでしょうか?


 更に言えば、オリジナリティはその人の好みやレパートリーの構成、共演者との相性、人生経験などによっても変わってきます。これらも含めて、全て、既存、先人のピアニストと同じになることの方が、考えにくいと思いませんか?


安心して、耳コピをして頂ければと思います。



 

 それでは3つ目です。話が長くなってきて、何の3つ目だったか忘れそうなので復習しましょう。今回の話題は、スケールだけ覚えてアドリブができないと悩む人に向けて、その対策を考える記事です。スケールを覚えてもアドリブできない根本的な理由は「自分で作ったフレーズでアドリブを演奏しよう」と考えているためで、今、そう考えてしまう理由を掘り下げています。


一つ目と二つ目まで書きましたので、次が三つ目です。


 さて、三つ目の理由は、耳コピしたいけどできない、あるいは、できなくもないが労力が大きくあまりやらないため、自分でスケールや理論をもとに作ったものでアドリブを弾こうとしている。というものです。


 この場合、耳コピに対するハードルを下げる必要がありますが、その方法を一つ紹介しましょう。それは、答えが分かっているもの(要はコピー譜の類)と照らし合わせながら耳コピすることです。具体的には、市販のコピー譜がいちばん手っ取り早いですが、当サイトのアドリブ解説系記事には、それなりの量のアドリブフレーズの譜面を掲載しています。また、YouTubeでも、そういった情報が得られる動画は山ほど見つかります。


 この方法は、受験の参考書などで、全く分からなかった数学の問題の解答解説の最初の方をちょっと読むことで、自力では思いつかなかった突破口が見つかり、解法が進むきっかけになるのと似ています。


 つまり、どうしても自力では聞き取れなかった音も、一部が分かることで相対音感が働きやすくなったり、間違って聞き取っていたことに気付いたりすることがあります。譜面も間違いがあったり、自分と意見が異なる聴音をしていることもあるので、全てを鵜呑みにするのは危険ですが、道具の一つとして、完全に否定されるものではないと思います。


 譜面を読んでそれをただ弾くだけの練習に陥りやすいデメリットもありますが、慣れてくれば、そこも含めて、ちょうど良い付き合い方が見えてくるでしょう。


 自分の大好きなピアニストの譜面がない場合もあるかもしれませんが、とりあえずその場合は3番目とか4番目位のピアニストでも良いので、耳コピを始めましょう。すると耳が良くなって、そのうち自分が好きなピアニストも聞き取れるようになるはずです。著名なピアニストは多かれ少なかれコピー譜が市販されているので、あなたがジャズピアノ好きならば、その全員が好みに全く合わないことは無いだろうと考えています。


 尚、耳コピに関してはこちらの記事でも述べていますので、ご興味ある場合は、よろしければ併せてお読みください。


 ここまでの内容で、スケールを覚えてもアドリブができないと悩む原因の根底には、突き詰めれば、耳コピしたフレーズをたくさん練習してそれをもとにアドリブを弾けば良い、という発想を持っていないか、あるいは足りていないことが見えてきました。


 耳コピ自体に技術的ハードルを感じている方は、ここまでの内容やリンクをお読み頂きたいのですが、それだけでなく、「耳コピした後に、アドリブにどうやって結び付ければ良いのか?」という声が聞こえてきそうです。


例えば、

・自分で準備した耳コピフレーズを組み合わせた書き譜は、いかにも準備してきた感満載。そもそもアドリブじゃない。

・じゃあ、全部耳コピしてそれをそのまま弾いたところで、聴いている側にはバレバレ。

・耳コピしたフレーズを頑張って覚えたって、アドリブでは、いざと言う時には全く出てこない。

・覚えられるのは短いものばかりで、それではとても2コーラス、3コーラスのアドリブを有意義に展開できない。

・覚えたフレーズだけしっかり弾くけれども、そこ以外はほとんど蚊の鳴くようなアドリブになってしまう。

・いくら事前に耳コピしても、結局、感覚で適当に弾くだけになり、後で録音を聴いてガッカリする。

・頑張って勉強したスケールが救世主になるのではないか期待するが、結局あまりアドリブの役に立っているように思えない。←これが今日の話題の核心ですね。


お気持ち、非常によく分かります。全部、過去の私です。


 ところが、上記の様な苦悩はアドリブに初めて取り組んだ場合、当然のように立ちはだかる壁なのです。なぜならばアドリブというのは、破綻のない音楽理論と、物理的な演奏行為(音楽表現)を同時並行で成立させる、結構大変な作業なのです。はっきりいって、そんな簡単にできるようにはなりません。年単位で、たくさん反復練習する必要があります。まずそのことを頭に入れましょう。


もう少し説明します。


 世の中の流れとして、ジャズピアノを始めるピアニストは、多少なりとも、クラシックピアノの経験を積んだ上で、ジャズに転向する人が大多数です。譜面のある音楽を演奏する場合、それがちゃんとした作曲家が書いた曲であれば、例えどんな初心者向けの曲であっても、きちんと理論的に音楽が成立するように曲が書かれています。コード(和声)進行やフレーズ、両手の音のバランス、曲の構成など、譜面に従っていれば、ある程度の水準では音楽が出来上がるのです。(表現を突き詰めるとか、そういう話は別次元なので、一旦横に置いて下さい。)


 正直な話、(専門家は別として、アマチュアの)クラシックピアニストの場合は楽典の勉強度合いの個人差が大きいです。そうすると、各人が楽曲分析をどのくらい行うかは別として、理論的な解釈よりも、曲の表現や演奏自体の探求に重点を置きます。


 なぜなら、「ここで何々が起きて、解決して、転調して、何とかの和音がどうのこうの」という理解は、もちろん演奏に役立つこともあるでしょうが、だからと言って自分の希望や好みで、勝手に●m7を●7に変更したり、フレーズを変更したりできないからです。


 その結果、演奏のアプローチとしては主に、楽譜を読み込んで、同じフレーズを嫌と言うほど繰り返し、表現方法を模索します。このことは、演奏する音自体を自ら選んで音楽を作っていくという思考は基本的に働いておらず、出す音に関しては楽譜、作曲者に委任していることを示唆します。


 実際に、クラシックピアニストとジャズピアニストに同じ音楽を聞かせると、クラシックピアニストは演奏のタッチ、音色などに注意して聞くのに対し、ジャズピアニストは、楽曲のコード進行など、理論的な部分に注意して聞く傾向があることが知られています。(別に、どちらが良いとか、そういう話ではありません。)


 そして、ここからは私の意見ですが、既存の楽曲を自身の意思で変更できない音楽から、ジャズのアドリブの様に、自分で音を選べる音楽を知った時、理論を過信してしまう危険性があるということです。オルタードを初めて知った人が、オルタードの和音を出すだけで、まるで自分が一気に上手くなったように感じるのです。特に、ピアノの場合、良くも悪くも鍵盤の視覚情報から出す音が分かります。すると、頭でイメージできていなくても、音程としては、ちゃんと音が出てしまうのです。


 その結果、スケールや理論を勉強するだけで、アドリブができるのではないかと錯覚し、「自分でフレーズを作ってアドリブしよう」という発想の出発点になります。


 しかし一方で、楽譜を演奏していた時に、あれほど大切にしていた、音楽的な表現を、つい忘れていることに気付いていないということです。


 ジャズにおける、その音楽的な表現というのは、スイングのリズムであり、他の楽器とのやりとりであり、フレーズの細かい強弱やレイドバックであり、アドリブの構成であり、様々なことが挙げられます。これらは理論で説明ができない範疇のことです。


 見方を変えれば、理論は、音楽が音楽として成立するときの数学的な法則であり、音楽表現に至る前段階にあるものであり、演奏する時には無意識レベルになっていないといけないということです。演奏中に、このコードにはオルタードスケールのフレーズが当てはまるとか、オルタードは♭9と♭13が特徴的だから、このコードではこれとこれがそのテンションで・・・、とか考えていたら、気づいた時にはもう、そのコードは3つ位先のコードに進行しています。


 既に述べたように、楽譜がある音楽の場合は、理論の部分は作曲家に任せて、基本的に表現の追求に重きを置きます。譜読みという行為によって、音楽表現を突き詰める前に、いつのまにか理論の部分を無意識まで落とし込んでいることに気付きにくいということです。突き詰めた音楽表現をアウトプットすると、自然と一定以上の理論は付いてきます、楽譜があるので。

(だから、アマチュアクラシックピアニストで上手い人が、驚くほど、理論知識がないこともあります。)


 もうお分かりのように、ジャズのアドリブ練習において、この、理論を無意識まで落とし込み、音楽的な表現に橋渡しするのが「耳コピ→理論分析→反復練習」というわけです。これが、記事の最初に述べた、「理論の知識は、音源のフレーズや、演奏内容を解釈するための道具」だということです。


 楽譜のある音楽と違って、基本的にジャズで理論の勉強を多く求められるのは、演奏中にリアルタイムに音を自分で選択する必要があるからです。理論を勉強せずに、自分の感性と耳コピフレーズの暗記だけで音楽を組み立てるには、ジャズというのはあまりに複雑です。しかし、演奏中に理論を考えながらピアノを弾いている時間はありません。だから、上述のプロセスが必要と言うことです。


 そしてそれと同時に、理論は、それ自体が目的ではなく、より良い音楽表現のための手段だということです。また理論を勉強することで、聞き取れない音を理論的に予測したりできる場合もあるでしょう。それも含めて「道具」なのです。


 くどいようですが、なぜ最初の手順が耳コピでなければならないかを補足すると、初心者がフレーズを自作した場合、そもそもジャズを聞いている量が少ないために、理論的に正しくても「音楽的な表現」に関する情報が欠落するからです。それをいくら練習してもジャズにならないのです。


 既に述べたように、ジャズは演奏が予め完全に決まっているわけではないため、音楽理論的に無理のない音選びと音楽表現を同時並行で成立させる、結構大変な作業となります。理論に関しては、ほとんど無意識に落とし込んでいながらも、あくまで自分で音を選択し続けつつ、ちゃんと音楽的な表現も同時並行することも求められます。さすがに、楽譜で準備したほど完璧な演奏にはなりませんが、難しいのは当たり前ということです。


 そもそもの話、循環進行やブルース、枯葉などの曲が初心者向けとしてよく採用されるのは、理論の知識が比較的少ない状態で、感覚的に弾いても音を外しにくいからです。最初のアプローチとして必ずしも悪くはないと思いますが、よくある方法がペンタトニックやブルーノートスケール一発で、とにかく思いついたままに音を並べるやつです。


 「まだアドリブに慣れていないから、今の所、理論は置いておいて、アドリブすること自体に慣れましょうね」

ということです。


 この段階では前提となっている理論知識が貧弱なので、積みあがる音楽表現にも限りがあります。そこで多くの人が更なる上達を求めて理論を勉強し始めますが、そこで悩むことになります。後の流れは既に述べた通りです。


 ジャズの理論を勉強して、それを無意識に落とし込み、しかしあくまで演奏中の音の選択は自分で行いつつも、それなりに音楽的な演奏になってくるまでの期間として、半年や1年そこらでは見積が甘すぎるということです。3年5年でふと自分の進歩に気付くと同時に未熟さを知り、そこから一生の付き合い位で考えておくと良いでしょう。


当然、私もまだ圧倒的に発展途上ですので、是非、共に頑張っていきましょう。


 最後にまとめますが、頑張ってコードとスケールを勉強しても、いまひとつアドリブができるようにならない理由は、「理論の知識は、音源のフレーズや、演奏内容を解釈するための道具だということを見落とし、自分でフレーズを作ろうとしている」からです。


自分で作ろうとしている理由は以下の3つです。


1つ目は「即興とかアドリブだから」だと考えて、文字通り、「即興演奏」しようとしている。

2つ目は、ジャズは耳コピとよく言うけれど、自分で作ったフレーズでないと演奏にオリジナリティが出せない、と思っている。

3つ目は、耳コピしたいけどできない、あるいは、できなくもないが労力が大きくあまりやらないため、自分で作ったものを弾こうとしている。


いずれの場合も「耳コピして、それをたくさん練習する」という思考の不足に行きつくと考えられます。そもそも、ジャズのアドリブは音楽理論的に無理なく音楽を成立させつつ、音楽表現を行う難しい行為のため、簡単に習得することはできません。たくさん練習する必要があるのです。


 理論に頼り、それを元にアドリブをしようとして、肝心の音楽表現を忘れてはいけません。理論は、音楽表現の際には無意識レベルまで落とし込んでいる必要があります。ジャズでは、耳コピをして、理論で分析し、それを反復練習することが、音楽表現を学ぶ上で重要になります。半年、一年などのスパンではなく、数年レベルで練習を重ねることが重要です。


今回の記事が役に立ちましたら幸いです。

ピアノ

もっとジャズについての情報を知りたい方は是非メルマガ登録をどうぞ!

「ピアノ経験者がジャズピアノを始めたときに、

 挫折しないために知っておくべき重要ポイント」

​ ・約37000字に渡り解説した、ジャズピアノをやり始める時に知っておきたいこと。


以下は、実際のフレーズをどのように理論で解釈するかの実例を示し、

独学でアドリブを練習するより、大幅に上達のスピードがアップする方法を説明したものです。

是非、内容をご確認下さい。

ジャズのアドリブを取るための練習法
¥5,000.00¥3,000.00
購入する

 
 
 

コメント


bottom of page